30歳を過ぎてからの新たな挑戦で 湘南を代表するパン屋さんに~「ブーランジェリー ヤマシタ」

国道1号線の二宮交差点を北上し、かつては商店街として栄えたという裏通りに入ったところに佇む古民家のようなパン屋さん。開店時間が近づくにつれ、今や遅しと開店を待ちわび、店頭に次々とお客さまが並びだす。湘南のパン好きならその名を知らない人はいないパンの名店、それが「ブーランジェリー ヤマシタ」です。

異国情緒あふれる魅せの扉をくぐると…

豊かな緑に囲まれ、古民家をリノベーションしたかわいらしい店先は、まるでそこだけ異国のような雰囲気。周囲には焼き立てパンの芳しい香りがこぼれ、期待に胸は膨らみます。扉を開ければそこにはバラエティ豊かなパンがずらり。カンパーニュにバゲット、シナモンロールに総菜パン…。「あれもいいな、こっちもいいな」と今日はどのパンにするか、しばし逡巡してしまいます。

  • リノベ―ションをした古民家に緑の植物が映える

  • ずらりと並んだ数々のパン。一日に約35種類ものが並ぶ

北欧家具の仕事に忙殺され、家に帰れない日々

店主の山下雄作さんがパン作りを始めたのは33歳の時と、パン職人としてはかなり遅咲きのスタート。

かつては東京で北欧家具を販売する仕事をしていた山下さんですが、仕事に忙殺され家に帰るのは週に数回ほど。まさに仕事漬けの毎日だったとのこと。そんな毎日を送るなか、「子どもや家族の顔も見れずに、仕事に没頭する毎日でいいのだろうか」と、ふと我を見失っていた自分に気づいたと山下さん。

「30歳を過ぎ、子どもがいるなかで無職になる…」。なかなか厳しい状況ではあるにかかわらず、意外や意外、妻の房江さんは退職に大歓迎だったそう。
「やっぱり家族全員が毎日顔を合わせながら、自然が豊かな湘南で子育てや生活を送りたいですよね」と房江さん。

  • 飛ぶように売れる一番人気のシナモンロール

  • オシャレなcafeの待合室

貯金を切り崩しながら生活をし、次に何をすべきかを模索する日々。仕事漬けの生活で身も心もボロボロだったせいか、山下さんは社会復帰するまでに1年余り休養を要したといいます。そんなある日、家族との時間を大切にするなかで子どもが美味しくご飯を食べる姿を見てふと、パンづくりを思い立ったそう。

「人は食べることで生きている。そんな人々の毎日の暮らしの糧となるような主食=パンを作ろうと思ったんです」。

前職では北欧家具の販売はするものの、実際に家具を作ることはできなかった山下さん。自分でモノを作るという家具職人のすごさを知っていることもあり、「“自分で何かを作る”ということをやってみたかった」というかつてから抱いていた夢に向けて動くことにしたのです。

1年をかけてようやく決意を固め、33歳にしてパン職人の修行へ。藁にもすがる思いで始めたパン修行ですが、山下さんは驚くべき速さで高いスキルを発揮し、なんとそれから2年10か月後に自分の店をオープン。お住いの茅ヶ崎からほど近く、海と山が豊かな二宮の地は新たなスタートを切るのにピッタリの場所でした。

  • まさに天職ともいえる仕事に出会った山下雄作さん

  • 北欧家具をはじめオシャレなインテリアが並ぶcafeスペース

人の手でつくられた、心のこもったパンを

山下さんが作るパンは、北海道産の小麦粉や北海道産全粒粉「春よ恋」をはじめ、基本的には小麦粉、塩、水、酵母だけ。極力添加物を用いずに、小麦が本来持つ香りと味を最大限に引き出したシンプルながら奥行きのある味わいが特徴。パンに入れる具材もほぼすべてが手作りで、「人の手がこもった」食材のみの使用を心がけているそう。

「人の手で心を込めてつくること。それが個人店の意味だと思うんです」と山下さん。開店以来使い続けている酵母は、“学生時代に留学していたデンマークの友人がりんごの木から作ったモノ”というところにも、そんな想いが現れています。

さらにパンも手が届きやすい価格に設定しているのもこちらの特徴。「パンは日常とともにあるもの。だからこそ安心して手を伸ばしていただける価格でなければいけない」というのが山下さんの信念なのです。

  • 基本的にすべてが手作りで、出来合いのものは使用しないのが特徴

  • パンの横にはかわいらしい雑貨も

北欧家具を知り尽くしたオシャレなcafe空間

ブーランジェリーヤマシタの魅力は、パンの美味しさだけではありません。コーヒーとパンを楽しみながらゆったりとした時間を過ごせるカフェに入らずして、このお店を語ることはできません。店内に入るだけでなぜか心がほっと落ち着く雰囲気のカフェは、全国に名を馳せる那須の「NASU SHOZO CAFE(ナス・ショウゾウ カフェ)」を参考にして、腕利きの大工職人とともに古民家をリフォームしてつくったもの。

素朴ながらもあたたかみのある空間には、山下さんが目利きをした北欧家具やインテリアがずらり。さらに本棚に並んだ建築や食、ライフスタイルに関する書籍は自由に閲覧でき、かわいらしい雑貨が空間を楽しく彩ります。

  • 建築の本や写真集など山下さんが好きな本がずらり

  • 葉山の古道具専門店「桜花園」から取り寄せたガラス戸の先には豊かな緑が

  • 秀逸なインテリアのセンスさすがと唸らせれる

  • cafeメニューとして人気のあんバターサンド

学生時代にデンマークに留学して北欧の文化に触れ、そうした経緯から北欧家具の業界に入った経緯からか、素朴ながらも洗練されたデザイン性を感じさせる居心地の良い空間づくりは、さすがと唸らされます。

「このお店には私が好きなものしか置いていません。自分が“いいな”と思うものをお客さまと共有し、お客さまの心を豊かに満たすことができれば、そんな幸せなことはないと思います」。

実際にcafeで過ごしてみると、まるでここだけ時間がゆっくりと流れているよう。外の緑をぼんやり眺めたり、本棚から美しい写真集を手に取りパラパラと読んだり、または親しい人との静かに会話を楽しんだり…。誰もが思い思いの豊かな時間を過ごすことができます。

  • ちょっとした隠れ家のような落ち着く空間も

  • 好きな本を手に誰にも邪魔されない至福のひととき

「正直言って、私よりも美味しいパンをつくるお店はいっぱいあると思いますよ」と山下さんは言います。けれども多くのお客さんが山下さんのパンを求めて今日も列をなす…。それはきっとパンに込められた、山下さんをはじめとした多くの人々の気持ち、そして「自分の好きなもので、みんなを幸せにしたい」という思いが、お客さんの心に響いているからなのではないでしょうか?

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