鎌倉山のお屋敷街に佇む、希少植物の楽園「草花屋 苔丸」

鎌倉駅からバスで約20分。高級住宅地として名高い鎌倉山は、古くから政財界・芸能界の著名人の別荘地として重宝され、別格の雰囲気をもつエリアです。

そんな周囲の“お屋敷”と呼びたくなる建物とは雰囲気が異なり、鎌倉山の桜並木道路沿いにある山小屋のような佇まいの「草花屋 苔丸」。駅からも遠く険しい坂の上にあるにも関わらず、店主がセレクトする珍しい植物を求めて、全国からお客さんがやってくるそうです。

今回は店主の赤地光太郎さんにお話を伺いました。

店先から、独創的な雰囲気がただよう

どこかノスタルジックな雰囲気のある平屋の建物。店の前の桜の大木を取り囲むように、溢れんばかりの緑が置かれています。店先には、木箱やブリキのトレイに入った苗や季節の植物が古びた庭道具・オブジェ・木片などと調和するように組み合わされ、お店に入る前から「苔丸」ならではの独創的な雰囲気が感じられます。

お店に入ると、まずは切り花やドライフラワーを中心とした部屋が広がります。その奥には中庭があり、建物側にサンルームが作られています。そのサンルームから左奥へ、頭をぶつけそうな低いアーチをくぐると、そこが売場兼アトリエスペースとなっています。

まるで異世界に迷い込んだような気分に

この独特な店内の雰囲気が、ここがいつの時代・どこの国なのかわからなくなりそうな、異世界に迷い込んだような気分にさせます。人によってさまざまな感想があるそうですが、筆者は、“梨木香歩の小説”や“スタジオジブリの映画”に通じる世界観を感じました。

「ジブリのようだとはよく言われますね。ジブリ映画も好きですが、それ以外にも古今東西を問わず、さまざまな映画や美術などから影響を受けてはいます」と、赤地さん。

店内には普通の花屋さんや園芸店では見られないような珍しい植物が、ところ狭しと置かれ、変わった形状の鉢・花器やヨーロッパ・アジアを問わずさまざまな国のアンティーク古道具類と共に創意工夫を凝らしてディスプレイされています。

店内の植物は、赤地さんの目利きによって選ばれていますが、珍しい種類だけでなく、一般的な植物でも形が変わっていて気に入ったものなら取り扱うこともあるそう。普通の花屋などでは敬遠されそうないびつな形のものでも、赤地さんの目にとまればそれは“個性”として認められて、「苔丸」の店内に置かれることになります。

花屋ではなく、草花屋

緑豊かな北鎌倉で生まれ育ったという赤地さん。お母様が庭づくりをしていたことに影響を受けたそうで、高校卒業後は花屋さんに就職。花の販売だけでなく、室内装飾やホテルやブライダルのブーケ・フラワーアレンジメントなども手がけていたそうです。

植栽の学校にも通いながらいくつかのお店を経験したそうですが、23歳の時に3ヶ月ほどニュージーランドへ旅行に行くことに。帰国したその日に、鎌倉山へ習い事に通っていたお母様から今のお店となる物件がでていることを知らされます。

旅行先で、日本国内の普通の花屋とは全く違った、独特のセンスで植物を集めて取り扱うお店を見たことで、「またどこかの花屋で働くのではなく、自分でお店をやってみよう」という気になっていた赤地さんはすぐに物件の下見にいったそうです。

  • 店主の赤地さん。店内では、月に数回クラフト講座もおこなわれる。

鎌倉山という人通りの少ない場所ではありましたが、赤地さんには「たくさんの人が来るよりも、自分の世界観に共鳴してくれる人が訪れる店にしたかった」という想いがあったとのこと。自由に改装して良いという条件も決めてとなり、この建物を借りてお店を始めることにしました。

知人たちの力を借りながら、じっくりと時間をかけながらお店を改装。もとの建物の活かせる部分は残しながらも、サンルーム・中庭・アトリエなどを作っていったそうです。

また、“花屋”ではなく、“草花屋”と名乗ることにしたのは、一般的な花よりも緑の草木の方がより好きだったからだそう。さらに「苔丸」の名前の由来は、緑の中で自分が一番美しいと感じている“苔”と、大好きだったお爺様の名前の一部をかけあわせたとのことです。

プランツデザイナーとしての活動も

フラワーアレンジメントだけでなく、植物全般に関する創作を幅広く手がけることから、「プランツデザイナー」といわれるようになったという赤地さんは、選んだ草木・花を使っての、庭やオブジェなどの制作もされています。赤地さんのセンスに惚れ込む人も多くお店の庭を見て、「この庭をそのまま我が家に移してほしい」と頼まれることも多いのだとか。

鎌倉エリアでは、ミシュラン掲載店である隠れ家的レストラン「ラ・ペクニコヴァ」や古民家を改装した人気カフェ「ミンカ」の庭を手がけたり、目黒区碑文谷にあるインテリアショップ「FROB(フロブ)」では店内の植栽を担当されるなど、プランツデザイナーとしての活動も広がっています。

あえて手を加えすぎず、草花の自然な表情を引き出そうとするのが赤地さんならではのこだわり。例えば、「庭づくりの時には、もともとこのような植物が生えていたと思われるようにするのが理想」とのこと。店内の植物も、味わいある古道具や花器が引き立て役となって、まるで野山から採ってきたかのように自然な趣を感じられます。

そんな草花の奥深い自然な表情が感じられる「苔丸」ならではの世界に触れてみたいという人が、北海道や沖縄からもやってくるそうです。他では決して味わえない「苔丸」の世界観が気になった方は、ぜひ一度足を運んでみてください。

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