湘南で暮らす人々

鎌倉の自然美が宿る現代アート。素材に着目した独創的な世界観で注目される画家「MIZUTANIKOTA」

都心部に出やすい交通の利便性がありながらも、海や山など自然に恵まれ、古くから多くの芸術家が創作の地としてきた湘南エリア。 

独特な世界観で人々を魅了している画家「MIZUTANIKOTA(ミズタニコウタ)」さんも、湘南を拠点に創作活動を続けている芸術家の一人。豊かな自然の中で生み出された作品は、鎌倉梶原口のコーヒー豆店「イマジネーションコーヒー」、鎌倉小町通りの雑貨店「WELKAM」、不定期オープンの鎌倉のギャラリー「pause」などにも展示され、多くの人々の日常を彩っています。

キャンバスや絵具など素材の特性を活かして生み出されるMIZUTANIKOTAさんの世界に迫りました。

創造力を掻き立てる “キャンバス”

絵画の土台となるキャンバスそのものに興味を持ったことから自らの作品制作を始めたというMIZUTANIKOTA さん。その素材への興味が、現在の作品につながっています。

通常の四角いキャンバスだけでなく、丸や三角のもので制作することも。既製品にはない形のキャンバスは「atelier 2F(アトリエニエフ)」で特注したものとのことで、素材へのこだわりを感じます。

抽象表現の中に感じられる鎌倉の自然美

抽象的な作風は様々な解釈ができそうですが、実際に作品を目にした人々からは、「鎌倉の自然の美しさを感じる」と言われることも多いのだとか。

「緑豊かな庭園で展示をした時には、作品に気づかずに通り過ぎた人や踏んでしまう人もいました。庭と作品が一体化していたのかなと思って嬉しくなりましたね」と笑顔で語ってくれたMIZUTANIKOTAさん。

本人は特に意図してはいなかったそうですが、美しい自然の景色が残る鎌倉・稲村ヶ崎で生まれ育ったというMIZUTANIKOTAさんの、幼少期から触れてきたものが作品へと滲み出ているのかもしれません。

クリエイティブに囲まれた環境で育つ

お父様はイラストレーター兼デザイナー、お母様は画家という環境で育ったMIZUTANIKOTA さん。四人兄弟の末っ子で、長男は芸術家兼農家、次男はグラフィックデザイナーをしながら先にも登場した雑貨店 「WELKAM」を経営、三男はカメラマンとして活動されています。

ご兄弟そろってクリエイティブな道へ進まれていますが、お父様から基本的なデッサンを習ったことがあるくらいで特に何かを強制されることもなく、のびのびと自由な環境で育ったそう。ただ、ご両親やお兄様の影響もあり、幼少期から当然のように“自分も画家になるのだろう”と思っていたとのだとか。

美大に進学したお兄様達から様々なアート、音楽、映画などを教えてもらい、刺激を受けたMIZUTANIKOTA さん。プロダクトやファッションのデザイナーになりたいと思うようになり、デザイン系の大学へ進学します。しかし、実際に学ぶ中で自身の求める生き方との間に違和感を覚え、大学は中退することに。

キャンバスの裏側に見つけたオリジナリティ

何がやりたいのか分からなくなっていた時、お兄様から画材をプレゼントされたことがきっかけとなり、絵を描き始めることに。絵の具で遊ぶように自身の描きたいものを模索していたといいます。

そんなある日、デッサンをしたキャンバスの裏に何気なく絵を描いていたところ、筆とキャンバスの間に生じる摩擦に対して“何かこれまでとは異なるものができた”という感覚を覚えたのだとか。

同じ頃、動画で現代絵画の巨匠であるゲルハルト・リヒターの制作風景を見て衝撃を受けたMIZUTANIKOTA さん。「絵ってこういう描き方もあるんだ」と独自の表現に感激し、自身も “筆とキャンバスの間に生じる摩擦”のような表現を推し進めてみることに。それが、現在の作風につながっていったといいます。

大庭園との出会い

本格的な作品制作を始めたMIZUTANIKOTAさんは、2016 年には横浜で開催された『BankART Artist in Residence』に参加するなど、活動の幅を広げていきます。

様々な分野のアーティストと交流する中で、「現代アートが盛んな都心を拠点にし、より多くの展示や売り込みをしていくべきだ」という助言を受けるも、豊かな自然を離れた都心での生活が想像できない…。どのように活動していくべきか若干の迷いが生じていた時、とあるイベントで藤沢市大庭にある「大庭園」を訪ねます。

「大庭園」は造景家であるオーナーが設計・デザインしたナーセリー(植物栽培園)を含むアートガーデンで、アーティストやクリエイターのためにも貸出している場。“自然体”を意識してつくられた空間に魅了されたMIZUTANIKOTAさんは「大庭園」に通うようになります。

庭を眺めているうちに“人間もまた自然である”ということを感じ、「やはり海や緑の豊かな湘南で創作を続けていきたい」と思うようになったそうです。

「作品制作というどこか人為的な行為に対して疑問を感じていた時期だったのですが、自然体の大庭園の空間に触れて自分の制作行為もまた自然現象の一部なのだと気付き、自らの表現が肯定されたような気になりました」

現在では、大庭園の一角にアトリエスペースを借りて作品を制作しています。

自然のサイクルの一部でありたい

独自の感性で、精力的に作品を生み出しているMIZUTANIKOTA さん。

「木は育つといつか腐って倒木してしまいますが、そこに虫が巣食い、やがて土に還ります。そんな自然のシステムの中の一部のように、自分の作品がなれたらと。死ぬまで絵を描き続けていきたいですね」

そう話す力強い眼差しに、絵を描くことの喜びと覚悟を感じました。これからも独創的な表現の模索を続け、唯一無二の世界を私達に届けてくれることでしょう。

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