「逗子の空き家をアート会場に」空き家再生に取り組む片付けコンサルタント 福井ひろ子さんが語る、片付けから始める地域活性化

湘南地域を中心に片付けコンサルタントを開業して8年目の福井ひろ子さん。昨年からボランティアで空き家を片付け、逗子市と市民が協働で開催するアートイベント「逗子アートフェスティバル」の展示会場として再生する活動に取り組んでいます。「空き家は隠れた町の資産」と語る福井さんと一緒に空き家再生の現場を取材しました。

片付け作業スタート~空気まで清々しく変化

今回再生するのは、逗子市内某所にある空き家です。恐らく築80年前後だろうとのことですが、正確な年数は不明だそうです。持ち主は数回変わっていて、現在の持ち主は既に転居しています。作業は既に数回行っていて、不用品が外にも置いてありました。

午前10時半、酷暑の中で片付け開始です。幸いエアコンは使えるものの、すぐに汗が吹き出してきます。

  • 今回再生する空き家

人のいない家は、何だか物寂しい感じがします。「台所から水拭きを始めてください」福井さんの指示で皆が動き始めました。家具を動かし、不用品を処分して片っ端から水拭きしていきます。

  • 和気あいあいと会話しながら、片付け開始

メンバーは福井さんの呼びかけで集まった、ボランティアの人たちです。グラフィックデザイナーのSさんは「持ち主の方と知り合いだったので、何か力になれたらと思って」と参加した動機を話してくれました。

近所にお住まいのKさんは、空き家の持ち主と交流する意義を強調します。「人間って、誰か1人相手がいればいいんですよ。でもそれがゼロになっちゃうと本当に孤独。空き家の話をきっかけに顔見知りになって、そのうち地域のサロンにも顔を出してくれればいいなって」

  • Before

  • After 空気までさっぱりと

午後2時、作業が完了しました! この後、数回の作業を経てアーティスト3名による展覧会の会場に生まれ変わります。展示終了後は逗子市の空き家バンクに登録する予定だそうです。

すっかり片付いた部屋を改めて見ると、窓からの景色が素晴らしいことに気が付きました。

  • アート展会場時の様子 絵画;矢田順二、陶芸:nakano yumiko、木工:堀 宏治

  • アート展会場時の様子 絵画;矢田順二、陶芸:nakano yumiko、木工:堀 宏治

片付けで第二の人生を踏み出した参加者も

「掃除という名目だけど、皆さん、おしゃべりするために集まってきているようなものですね。いろいろな人とつながれるのがこの活動の良いところなんです」と福井さん。

メンバーの中には、片付け仲間との出会いで人生が変わった人も。近所のよしみで片付けボランティアに参加したYさんは、84歳の庭仕事が得意なメンバーと一緒に草取りをやっていくうちに他の家の庭仕事を頼まれるようになり、ついに造園業に転職してしまったそう。「片付けは家を再生するというより元あった姿に戻す感覚に近いのですが、時々それが片付ける人にも起こるので面白いんです」

  • 近所に住んでいるYさんは空き家の清掃活動で庭仕事に目覚め、造園業に転職した

片付けで、埋もれた町の宝を輝かせる

福井さんが空き家再生を始めたのは昨年(2023年)、娘さんに誘われて参加した逗子アートフェスティバルのボランティアスタッフとして会場を探したことがきっかけでした。

最初は市役所に空き家の紹介を依頼しましたが、個人情報の問題で断られてしまいます。そこでチラシを作って市役所の窓口に置いてもらい、物件をギャラリーとして借りる代わりに家の片付けを提供すると呼びかけました。やがてチラシを見た人が知り合いを紹介してくれるようになり、少しずつ人の輪が広がっていったそうです。

空き家再生の魅力について、福井さんは埋もれた町の良さを引き出し、活性化する意義ある仕事だと語ります。

「空き家は町の中で、要らないと思われている存在。でも、本当は価値がある町の資産なんです。やりようによってはすごくきれいになってまた使えたり、生かしてくれる人につなげたりできる。そうやって、荒れてしまった場所の良さを引き出してキラッと光らせる。私が空き家に興味があるのは、それが面白いからだと思います」

  • 「空き家は、価値ある町の資産です」と語る福井さん

若者を育て、持ち主と対話~空き家再生に見たシニアの潜在力

総務省の調査によると逗子市の空き家率は17.1%(平成30年)、少し古いデータですが2割に迫る割合になり、町中で目立つ存在になりつつあるのが分かります。市では前出の空き家バンク制度のほか、空き家アドバイザー派遣や補助金交付などを行い、対策を講じています。

取材した皆さんが口をそろえて語るのは、一番大変なのは空き家の持ち主とのコミュニケーションだということでした。いきなり赤の他人が家の再利用を持ちかけてもなかなか応じてくれないため、持ち主と同世代のボランティアが何度も接触して仲介した例もあるそうです。

2024年8月時点での逗子市内高齢化率は31.42%。3人に1人が高齢者ということになります。Yさんに庭仕事の楽しさを教えて造園業に導いたボランティアの男性のように、空き家問題に対する地域のお年寄りの影響力は意外と大きいのではと感じました。

町の宝は、空き家だけではないのかもしれません。

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