エスプレッソを飲む感覚でお茶を〜「逗子茶寮 凛堂-rindo-」で体験する新たなお茶の世界

海の街・逗子に新たにオープンした「逗子茶寮 凛堂-rindo-」。足を踏み入れると、そこには日々の喧騒を離れ、深遠な日本茶の世界に浸ることのできる特別な時間が待っていました。

メニューにはお茶だけでなく、ティーカクテルや日本各地のワインなどのメニューなども。聞けばオーナーはもともとソムリエをしていたのだとか。どのような想いでつくられたお店なのか、なぜ日本茶なのか、オーナーの山本睦希さんにお話をうかがいました。

日本の伝統文化に気づかせてくれたフランスでの修業時代

オーナーの山本睦希さんは京都出身。イタリアンの名店「ザ ソウドウ 東山 京都」にサービスマンとして従事したのは19歳のとき。憧れのサービスマンに付いて修業をするうち、一流を目指すツールの一つとしてソムリエの資格を取得します。

ソムリエとなった山本さんは、ワインの本場であるフランスへ。そこで現地のソムリエから「我々フランス人は母国のワインを売っている。なぜ日本人は母国のワインを売らないのか」と問われ、山本さんは日本人としてのアイデンティティに気付かされたといいます。

  • オーナーの山本睦希さん

日本人にしかできないこと

帰国後は「日本人の作る日本の酒」を知るため、ソムリエを続けながら、休日を利用して全国各地の蔵元・ワイナリー・蒸溜所をまわる日々。

その中で、ワインの世界でよく使われる「テロワール Terroir」(ブドウの樹を取り巻くすべての環境)という言葉がワインだけではなく、お茶や日本酒、ウイスキーの世界にも共通して存在している、ということを知ったと山本さん。気候や土壌、地形の特徴までもが生み出すものに影響してくるという考え方です。

生産者の作物に対する情熱に触れた山本さんに、“作り手を守りたい”、“日本人にしかできないことを追求していきたい”との想いが芽生えます。それはすなわち、日本人として伝統・文化を大切に、誇りを持って伝えていくということでした。

  • 様々な産地のお茶が並ぶ

  • BARになる夜はお酒もいただける

お茶の世界との出会い

銀座のレストランでさらに修業を積み、その後葉山のホテルに勤務し、お酒のプロフェッショナルとなっていた山本さん。27歳の時に、お茶をコンセプトとした新規事業へ携わることとなり、お茶の世界と出会います。

裏千家流茶道の稽古を受け、茶の湯の精神を知れば知るほど、自分の伝えたい日本の伝統と文化が明確に見えてきたと山本さんはいいます。

山本さんにとってお茶とは

京都で生まれ育った山本さんにとって、幼い頃からお茶は身近なもの。たとえば京都人の日常茶として有名な京番茶と呼ばれるお茶は、煎茶用茶葉を摘んだ後の葉や茎が使われた、独特の香ばしさがあり、京都のどの家庭でも常備されているもの。そんな環境で育った山本さんが、伝統・文化と向き合う中でお茶に再び出会ったことに運命的なものを感じます。

こうしてお茶との出会いを果たした山本さんに、転機が訪れます。自分の店を持つという目標があった山本さんは、ワインバーだった店舗を譲り受ることとなったのです。

お茶と向き合うひとときを提供

ワインバーだった店舗はワインセラーを引き継ぎ、日本の伝統文化を食で体現する空間として生まれ変わりました。

凛堂のコンセプトは「現代茶室」と表現された店内に凝縮されています。堅苦しい作法なども必要なく、エスプレッソを飲む感覚で気軽にお茶を楽しんでほしいと、あえて畳や和を強調するものは置かず、シンプルなカウンターと黒でまとめられたシックなテーブル席のみ。茶香炉からのどことなく懐かしい香りが漂う室内は、お茶と向き合う贅沢な空間となっています。

  • こだわりの一枚板のカウンター

実際に、山本さんの淹れるお茶をいただきました。

凛堂では山本さんが「この人の作るお茶なら飲みたい」と思った生産者さんの茶葉のみを使用しています。筆者が選んだのは「とろりとした甘味と口中に広がる出汁のような旨味」をもつ特選玉露。同じ茶葉を違う温度のお湯で3度煎れ、味の違いを楽しむことができます。

お茶と一緒にぜひ味わっていただきたいのが山本さん自らが作るお菓子。中国発祥の暦である「二十四節気」と呼ばれる季節の変わり目ごとに変わるお菓子は、独学で生み出されたもの。もともとお菓子だけは外注しようと思っていたところ、自分の求めるお菓子がなかったので作ってしまったのだとか。お菓子はあくまで主役のお茶を引き立てるためのものなので、お茶の風味を邪魔しない程度に砂糖の配分も通常の半分以下にしているそうです。

  • 京都宇治「三星園上林三入本店」の特選玉露

  • 無駄のない美しい所作

  • 季節毎に変わるお菓子 

  • 3度とも味が違う

逗子という地を選んだ理由

逗子の隣・葉山はご自身の親戚が住まわれている縁のある土地。幼い頃から葉山を訪れていた山本さんは、海のある風景に馴染みがありました。自分の店を持つことになり真っ先に選んだのは、様々な背景を持った人種が集まる風通しのよい逗子でした。くわえてコミュニティーの広さもメリットであり、同じ飲食店同士で競合するのではなく、共存できるよう助け合っていく特徴があるのも強み。

開店して5ヵ月、メニューが変わる二十四節気ごとに来店するお客さんもいらっしゃるのだとか。初めてお茶を味わった時の感動を忘れないうちに、再び特別な空間で特別なお茶とお菓子をいただきたい、という方が多いのもわかる気がします。

次世代につなぐ想い

お茶という日本の伝統・文化の魅力を伝えている山本さん。その想いはより大きなものとなっており、今後は、日本の守るべき伝統と文化を次世代に伝えていけるサービスマンの育成にも力を注ぎたいとのこと。

日本には美しい四季があり、そして私たち日本人にはその四季を五感で楽しむDNAが備わっています。凛堂はそのDNAを呼び起こしてくれる場所なのかもしれません。

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