湘南の有機農家さんを訪ねる

藤沢から全国へ、身土不二を広める「八〇八」。

藤沢市北部の葛原で農園を営む中越節生さんを訪ねました。

中越さんは、生産者であると同時に、善行で「駅前直売所 八〇八」を経営しています。お店では、自社農園や近隣の農家さんから仕入れた野菜を調理し、提供するほか、野菜や加工品の販売を行っています。安全で美味しい採れたての野菜をたっぷり食べられるとあって、ランチタイムにはいつも賑わう人気店です。

  • 八〇八の日替わりランチ。野菜のお惣菜が4種類に玄米ごはんとお味噌汁の定食スタイルです。

農業と飲食店を両軸に。

中越さんが農業をしながら、飲食店を開業したのには、いくつか理由があります。

もともと農家出身ではなかったため、当時暮らしていた千葉県流山市で新規就農するときには、とても苦労したと言います。(*市区町村により、農家資格の取得基準や手続きが異なります。)そのため、就農希望者がいれば相談に乗り、後押しできるよう、気軽に訪ねてもらえる場所を作りたかった、というのがいちばんの理由。

また、中越さんが大切にする「みんなが心地よい自然の循環」を生むためには、大切に作ったものを丁寧に売る場所が必要だと感じたそう。無駄なく野菜を使うことができるだけでなく、お客さんの声を身近に聞き、作り手としての原動力にしています。また、いまでは仲間の農家さんを買い支えることにも繋がっています。

さらには、もともと金融業界で仕事をしていた経験から、「リスクの分散」という視点もあったそう。東日本大震災のあと、流山市で原発の放射能問題に直面し、その視点は強まったのだとか。

  • お店の軒先には、自社農園や、藤沢の農家仲間が作った新鮮な無農薬野菜が並ぶ。

  • 菊芋を手軽に摂取できるオリジナルシリーズ「キクイモのちから」。丁寧な説明書きが、商品の魅力を高める。

課題が山積みの農業。ならば、多くの力が必要。

中越さんが農家になったのは、2005年のこと。外でジョギングをしていると、たくさんの休耕地が目につき、なぜこのように土地が野放しにされてしまうのか、興味を持ったそう。本を読み調べていくと、農政や跡取りなどの社会問題、農薬や化学肥料による環境汚染など、農をとりまく様々な問題を目の当たりにします。さらに、土地の取得や、高額な農機具の購入など、一般の人が農家になるためのハードルがいかに高いか、に驚きます。山積みの問題を抱える産業に、参入することができないならば、誰が問題を解決できるのか。そんな想いが沸き上がり、ご自身で農業を始めるに至ります。

流山市で有機農園の研修先を見つけ、畑や田んぼ、加工品づくりを学び始めて約1年が経つころ、お父様が他界されたことをきっかけに、おひとりで暮らすお母様と一緒に畑作業ができるようにと、独立を決めます。

  • 一面に菊芋を植えている畑は、一度も農薬や肥料を施肥したことがありません。

震災後の決断は、湘南・藤沢への移住。

独立後、畑が軌道に乗り、就農相談を受け入れる場づくりをしていた矢先、東日本大震災が発生。流山市で基準値を超える放射能の汚染が見つかり、幼い子どもが生まれたばかりだった中越さんは、すぐさま移住先を探します。そこで、有機農園を頼りに藤沢を訪れたところ、いまの畑と店舗が見つかり、移住を決めました。

一見、困難に思えることも「川の流れに逆らわない」という中越さんのモットーに従い、柔軟に、かつ力強く乗り越えていく生きざまは、周りの人々を惹きつけます。新規就農した仲間や、近隣で昔から農業を営んでいる農家さんと集い、販路を共有する八百屋グループを作っています。また、一緒に働くスタッフは、友人やお客さんの紹介などから集まる方ばかりで、一度も公募したことがないほどです。

身土不二を、当たり前の文化に。

そんな中越さんが、見ている世界。そして、未来に伝えていきたいこと。

「地元の人が、地元の野菜を食べる。有機やオーガニックの野菜は特別なものではなく、当たり前のこと。その身土不二の文化を藤沢で作れば、全国へも広まる。」力強く、語ります。

中越さんは野菜作りを地元の小学校でも教えています。その基本にあるのも、身土不二の考え。

「畑の野菜は、裸で育つ。それでも風邪を引かないのは、土から栄養を吸収し、そこで育つための免疫を蓄えているから。その土地の野菜を食べていれば、風邪を引くこともないし、健康でいられる。」

子どもたちにも、そう伝えています。

そして授業では、種をまき、収穫をして、パッケージ作りから、販売までを行う。総合的に農業を体験することで、つながりを感じてもらいます。

  • 畑の奥には、ミツバチの巣箱が。蜂は、近隣の植物の受粉を助け、蜜を集める循環の担い手。

  • ニワトリは雑草や野菜くずを食べ、土遊びをしながら土を耕してくれる。また、鶏糞は土の栄養分となる。動物は、畑で多重の役割を持つ。

総体的な循環の中で「生産」から「消費」を捉えることで、バランスの取れた「農業」が成り立つ。そのことを、体現しているように感じました。

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