湘南の有機農家さんを訪ねる

小さいからこそできることを「Microbe -Natural Farmers-(マイクローブ)」

大和市の郊外で農を営む 「Microbe -Natural Farmers-  (マイクローブ)」の追立昭博さんを訪ねました。「マイクローブ」は、旬のお野菜を通年で露地栽培し、飲食店や個人のお客さんにお届けしています。

“マイクローブ”とは、英語で[微生物]を表す言葉。微生物の働きを借りて、なるべく自然の力だけで野菜を育てています。微生物のように、自分自身も地球から見ればごく小さい存在。しかし、小さいからこそできることがある、という想いが込められています。またもうひとつの意訳[病原体]のように、身近なところからじわじわと広がっていく活動を目指しています。

  • 綾瀬スポーツ公園の横に位置するマイクローブ農園。公園でスポーツを楽しむ子供たちの声があたりを包みます。アクセスが良く、畑で行う直売イベントは賑わいを見せます。

追立さんが農業をはじめたきっかけは、2011年の東日本大震災。「食べるものを自分で作れるようになりたい」と家庭菜園を始めました。その後、近所のシェア畑で有機農業に出会い、CSA(地域支援型農業)*という制度を知ります。

CSAを知ったことで、「農業をやるなら食卓と畑をつなげるような取り組みをしたい」と思うようになり、大和市でCSAを実践する「なないろ畑」さんに農家研修に入ることを決めます

*CSA=Community Supported Agricultureの略で、生産者と消費者が決まった野菜を定額で取引する、などコミュニティで農業を支える取り組み。農家は生産量を調整しやすく、消費者は安全な野菜を得ることができ、地元の環境保全にも貢献できる。

新規就農をして7年目。独立していまの農地に移ってからは CSA の形態を取っていませんが、できるだけお客さんの元へ直接お届けするスタイルを貫いています。届けた先で、畑の様子や野菜のことを話すことで、消費者にとっても生産の場を自分事にしてほしい、という想いがあります。「正直、有機栽培だろうと味の違いは、なかなかわからない。けれど、あの人が作ったトマト。あそこの畑で育ったきゅうり。というように、顔の見える関係性や土地とのつながりから“美味しい”という感覚が生まれる。」と話します。

  • 常時10~15種の多品目野菜を栽培している畑は、青々と実る夏野菜の盛り。基本は、放任主義の栽培。草も刈るだけで抜くことはありません。

鵠沼海岸に住む追立さんは、サーファーでもあります。農業には、サーフィンと共通する部分があると言います。いちばんは「狙ってできない」という点。どちらも自然が相手。来る波に柔軟に乗る力が試されます。そのためには、常にコンディションを調えていないといけない。手入れを怠ると、同じようにうまくいかないんだとか。また、波乗りでは常に気にしなければいけない潮周りは、野菜作りにとっても大切な要素。種まきの時期は、中潮か大潮に合わせると発芽率が高まることを実感しているそう。

  • ひとつの畝にはさまざまな野菜がコンパニオン栽培され、見た目にも楽しくにぎやか。

  • 緑から赤に熟した甘長。この状態になると皮が硬くなり、辛みも出てくる。野菜の変化を知ってもらうため、赤いものも混ぜて販売するのだとか。

以前から、サーフィンを通して海の汚染や環境問題に関心がありました。農を営みはじめてからは、世界中で農薬が問題となっていることも知り、さらに環境問題が身近に。

畑のある大和市上草柳の「泉の森」に源を発する引地川は、南流して鵠沼海岸の湘南海岸公園から相模湾に注ぎます。「畑でのおこないは、自分の住む町や、いつも波乗りを楽しむ海へ影響を及ぼす。このようなつながりを感じることが大切。」と言います。

「健康な土づくりをしているから、美味しい野菜ができる。健康な土づくりをしているから、環境が守られる。農を通して、このようなつながりを感じてもらいたい」と言います。有機農業というと、ストイックなイメージを持たれることも。けれど、農法にこだわるのではなく、このような命のつながりを感じてもらうことが本質だと考えます。

  • 収獲した野菜は、近くの湧き水で洗う。鮮度が保たれ、より美味に感じられるそう。きれいな川にしか生息できないハヤの姿も見えます。

実は追立さんは、大和市で電気修理の個人事業を行う兼業農家さん。畑で一日作業をするのは週のうち2~3日。そのほかは、夕暮れ時に収穫をしたり、草刈りをする程度。大規模でなければ、有機農業は兼業でも可能だと言います。特に都市部では兼業農家が増えることで、CSAのような消費者との連携にもつながると考え、今後そのような動きを後押ししていきたいそう。

食を自分の手に取り戻し、環境をより良くするのは、ひとりひとりの小さく身近な取り組み。マイクローブの想いが有機的につながり、じわじわと広がっていく日は遠くなさそうです。秋以降には、畑での直売イベントなども予定されています。興味がある方は、ぜひSNS(@microbe.oitate)でチェックしてみてください。

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