“スイングカラン”の伝承者がいる店。“ビール注ぎ職人”が提供する究極のビールで憩う「BEER STAND MINATO」

八百屋や肉屋、魚屋なお多くの商店が軒を連ねる大船の仲通商店街は、いつでも多くの人々が行きかう活気に満ちた場所ですが、最近は次々と新しいお店がオープンしています。その波に乗るかのように、2020年10月にオープンしたお店が「BEER STAND MINATO(ビールスタンド ミナト)」。

ビールの季節である盛夏を避けて秋に開店したにもかかわらず、開店初日にはオープン前から行列ができたウワサのお店を訪ねてみました。

大船駅から仲通にぶつかったら左折して数十メートル、人気のうなぎ屋「うな菊」などが入る路地の一角に場所を構える「BEER STAND MINATO」。立ち飲みスタイルのビアスタンドでアルコールはビールのみ、料理も火を使わずにすぐに提供できるつまみのみというシンプルな構成。しかしメニューを一目見ると、そこには思わず「うーん…」考え込んでしまう見慣れない“選択肢”が。

ビールの注ぎ方が、7種類から選べる

メニューには、一度つぎ・二度つぎ・三度つぎと注ぎ方が3種類、さらに泡の質感もナチュラル・クリーミーの2通りが選択可能。さらに変わり種として、グラスのほとんどを泡で埋め尽くす「ミルコ」なる注ぎ方もあり、合計7通りから選ぶことができるのです。

ビールの銘柄は、サントリー「モルツ」、アサヒ「マルエフ」、サッポロ「黒ラベル」、キリン「ラガー」と大手ビール会社のメジャー銘柄ばかり。“開店初日にはオープン前から行列”と聞いて、店内にはいろんな銘柄が並んでいるだろうと思っていたのですが、意外にここは普通です。

とりあえずその中からサッポロ「黒ラベル」をチョイス。まずは最もオーソドックスと思われる一度つぎを注文してみました。

  • 合計7通りの注ぎ方から選ぶことができます。メニューには注ぎ方による味の違いの解説も

美味さの秘密は、昭和の復刻サーバー「スイングカラン」

氷水で冷やされたグラスを手にとると、無駄のない手さばきで丁寧にビールを注ぐのは店長の木村明宏さん。可愛らしいイラストが描かれたコースターの上に、さっとビールグラスが差し出されます。目の前のビールを見るときめの細かい真っ白な泡と、黄金色に輝くビールのバランスが見事。早速、一口ゴクリと飲んでみるとスーッと通り抜ける喉ごしの良さのなかにくっきりとした味わいがある印象。どことなくクリアな印象もあり、苦みの輪郭も際立っているかのようです。

「美味い!」の前に、思わず「ビックリした…」との言葉が出てくるほど。いつも飲んでいるビールがまったく別物になったかのような、ワンランクもツーランクも上の美味しさです。

この味の違いを生み出しているのが、昭和初期に作られていたものの復刻である「スイングカラン」というビールサーバー。現在、多くのお店で利用されている一般的なビールサーバーは、誰もが同じようにビールを注げるのに対し、昭和初期に作られたこのスイングカランは、注ぎ手によってビールの味ががらりと変わってくるそう。「泡切り3年、注ぎ8年」とも言われ、いわゆる“ビール注ぎ職人”しか取り扱うことができず、現在スイングカランを採用しているお店は全国で3~40軒しかないといいます。

  • 昭和の復刻サーバー「スイングカラン」が並ぶ店内

  • 流れるような手さばきで、ビールを注ぐ木村店長

「『ビールの本当の美味しさ』を知ってもらいたい」

しかし、なぜ木村さんはこのスイングカランを使ってビールを提供することにしたのでしょうか。実は以前、木村さんはこのスイングカランを日本で唯一製作するメーカー「ボクソン工業」で働いてたそう。ビールサーバーのメンテナンスなどで全国の居酒屋やバーを巡るなかで多くのビール職人に出会い、彼らが注ぐ“究極のビール”に感銘を受けたといいます。

一方で、多くの居酒屋ではビールはあくまでも飲み物のひとつで、メインはお食事。ビールサーバーのメンテナンスにまで手が回らず、ビールの美味しさを100%発揮できない状態のサーバーも多く目にしてきたといいます。そこで木村さんは「ビールって本当はもっと美味しいんだよ」を知ってもらうため、「BEER STAND MINATO」を開店することを決意しました。

  • 入念にカランの調整をする木村さん

泡が通常よりも多く出るスイングカランは、注ぎ方を変えることでさまざまな味わいのビールを提供することが可能だとか。一度つぎではビールのダイレクトな美味さと爽快なのど越しを、そして二度つぎでは味わいと切れの絶妙なバランスを、そして三度つぎでは適度に炭酸を抜きつつ、苦みを抑えた優しい味わいを楽しめるといいます。

「『とりあえずビール』と皆さんが言う通り、まずビールから飲まれる方が多いじゃないですか。しかしその1杯目がとても美味しかったら気持ちも上がりますし、料理ももっと食べたくなると思うんです。だからこそ、1杯目のビールは特に大切にしてほしいんです」

「大船の皆さまを迎える「港」でありたい」

しかし木村さんは何故、ここ大船を選んだのでしょうか。「当初は鎌倉を考えていましたが、その途中で大船に立ち寄ってみると、商店街が人の活気に満ちていてどことなく昭和の下町を思わせる雰囲気。これはスイングカランという復刻サーバーを使ったお店にピッタリだと思いました。

店名にある「MINATO」は、『大【船】の皆さんを、いつでも温かく迎える「港」のようでありたい』。そんな思いから名付けました」(木村さん)

  • 泡の優しさを楽しめるクリーミータイプ

  • 初心者には飲み比べセット(890円)もオススメ

スイングカランを継承し、受け継ぐ者の矜持

しかし、開店から着実にファンを増やし順風満帆と思いきや、思わぬ悩みもあるそう。それはスイングカランを使いこなせるのが木村さん唯一人という事実です。スイングカランを使いこなすには高度な技術を要するだけに、ほかの誰かに任せることができないのです。現在は、料理の提供やグラスや食器の上げ下げを手伝うスタッフが入ることもありますが、基本的には木村さん一人でお店を仕切ることも多いといいます。

「誰かスイングカランでビールを注ぐ技術を身に着けたいという方はいませんかね」と冗談交じりで話す木村さん。しかしそこには昭和初期から続いてきたスイングカランという文化や職人技を廃れさせたくないという木村さんの矜持がうかがえます。

  • 一番右は、すべて泡という驚きのビール「ミルコ」

注ぎ方で味が全く変わる、奥深きビールの世界

さて、美味しいビールを飲んでしまうと、とうてい1杯では済みません。2杯目は二度つぎのクリーミータイプを、そして3杯目は三度つぎをいただきました。三度つぎはキレを味わうというよりも柔らかさや味わいが深くなる印象で、ゆっくり時間をかけて飲みたくなるようなビールに感じます。こうして飲み比べてみると、注ぎ方ひとつでこんなにもビールの味わいが変わることに驚きました。

あえてメジャーな銘柄のビールを提供するのは、飲み慣れたビールの美味しさを知ってもらいたいから、さらに同じ銘柄でも注ぎかたの違いによる味わいの変化を感じてもらい、ビールの魅力・奥深さを知ってもらいたいからだそう、納得です。大手ビール会社のメジャー銘柄ばかり(ビールメインの店なのに何故?)..と思ってしまっておりましたが、木村さんの注ぐビールを飲んで、そんな疑問はどこかに吹き飛んでしまいました。

  • 三度つぎは適度に炭酸も抜け、苦みもマイルドに

  • 一番人気のつまみ「合鴨の味噌漬け」はビールとベストマッチ!

これから寒くなっても、やっぱり1杯目はビール!という方も多いかと思います。自分にとっての極上の1杯を求めて、ぜひ大船へ。最高のビールを楽しんだ後は、その後の大船はしご酒もきっと楽しくなるはずです。

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