「ラーメン、やりたいんだ」対談:岩本知也x大西芳実(前編)
湘南屈指の人気を誇り、数々のタイトルを受賞してきた「麺やBar 渦」。このお店のラーメンに魅せられ、そしてオーナーである大西芳実さんの人柄に惹かれて、遠路はるばる修行にやってきた人がいます。
生まれも育ちも愛媛・松山という、岩本知也さん。地元企業の営業マンとして全国を駆け巡る日々に別れを告げ、一世一代の大勝負に出ることを決意しました。そのとき彼が頼ったのが、湘南の地で丹精込めた1杯を作り続ける大西さんだったのです。
今回、「渦」の2号店である「麺や 渦雷」でお二人の対談が実現。およそ1時間もの間、様々なトピックについて語られました。前・中・後編の3回に分けてお送りします。初回となる前編では、松山にお住まいの岩本さんと湘南で暮らす大西さんの出会い、そして深い関係性に迫ります。
日々良くしようとして毎日味が変わっていったのを、「面白い」って毎日食べに来てくれた(大西)
――さっそくですが、一番最初にお二人が知り合ったのはいつですか?
大西:
2013年9月に京都の大丸で行われた「日本全国うまいもの祭り」という催事だったかな。
岩本:
そうですね。以前、各地方の中小企業や個人店を集めて行う物産展が京都であったんです。僕は前職で、愛媛の基幹産業であるみかんを元にした加工食品を全国に売り出すということを行っていたので、その物産展に愛媛の企業として参加しました。
大西:
うち(渦)も似たような感じで行ったかな。ある日うちにお客さんが来て、醤油、塩、まぜそばの3杯を食べていったんですよ。それで、その人から催事のことを聞いて、「京都で“湘南”の名前を出して(出店して)ほしい」っていう話で。
話を聞いて「あぁ、面白そうだな」と思ったし、ちゃんと食べに来て選んでくれたんだなと思ったんで、OKしたんだよね。
岩本:
うちもそうでしたね。「その人の売り方でうちの会社のゼリーを出せばきっと売れるんじゃないかな」と思って。それで、その人に呼ばれた京都・大丸の物産展でお互い知り合ったんです。
▲ 「麺やBar 渦」「麺や 渦雷」店主・大西芳実さん
大西:
その物産展で、僕ら渦が京都に来るっていうのを耳にした京都の(ラーメンの)お店が「手伝わせてください」って言ってきてくれて。それで、毎日違うお店が日替わりで手伝いに来てくれました。
その日の営業が終わると、「せっかくだから飲みに行きませんか?」って誘われたんです。毎晩ね(笑)
岩本:
そうそう(笑)
大西:
嬉しいことなんだけどね! ただ彼らは7日間のうちの一晩だけだけど、僕らは7日間毎日出てるから、毎晩遅くまで飲んでたんだよね(笑)
岩本:
その7日間の初日に、僕を物産展に呼んでくれた人が「懇親会をしたい」って呼んでくれたんです。その先の記憶はお互い定かじゃないんですけど……(笑)
大西:
そうそう。断片的には覚えてるんだけどハッキリとは覚えてない(笑)
それで、僕らは渦(で出しているもの)と同じコンディションになるように、水とかもお店から持っていって、毎日毎日ラーメンを仕込んでたんです。でも催事に慣れてなかったせいで、なかなか上手くいかなかったんですよ。
それでも日々良くしようとした結果、毎日味が変わっていったんです。岩本くんはそれが面白い、って毎日食べに来てくれて。催事が終わる頃に「いつも来てくれてありがとう、またどこかでね」なんて言ってたら、ある日フラッと渦に来たんです。
「またいつか会いましょう」を社交辞令で終わらせたくなかった(岩本)
岩本:
当時の僕は、北は札幌から南は福岡まで、全国の百貨店をずーっと行脚してたんですよ。一年のうちで240日ぐらいは行ってて、ほとんどお店にはいない……って感じだったんです。
その中で横浜の高島屋さんに行く機会が年に3、4回ぐらいあったので、「横浜にいるなら渦に行こう」と思って。あのときはラーメンが食べたいというより、「大西くんに会いたいな」って思ったんですよ。
京都での催事が終わってから、律儀に手書きで絵葉書をくれたんです。今でも大事に持ってるんですけど、飲み会のときのイメージがあったから、お葉書をもらったときは「この人すごいな」って思って。
大西:
あの場ではイケイケのチャラそうなお兄ちゃんだったからね。お互いがね(笑)
岩本:
そう、お互い(笑)そんなふうだったのに丁寧なお葉書を戴いて「あぁ、もう1回この人に会いたいな」って。「またいつか会いましょう」っていうのを社交辞令で終わらせたくなかったんですよね。
でも、住所を見て「本……なんだこれ?」ってなっちゃって(笑)
大西:
あぁ、「鵠沼(くげぬま)」ってなかなか読めないもんね。
岩本:
そう。それでネットで「麺やBar 渦」って調べて、お店のホームページを頼りに行ったら意外と簡単だった(笑)
▲ 愛媛・松山で「錦 iwamoto」を開く岩本知也さん
大西:
(横浜での)催事が終わってからだったから、ラストオーダーまで20分もないのに来てくれたんだよね。
岩本:
そう。そんな時間に行ってすぐ帰っちゃうようなバタバタした感じだったんですけど、「終電に間に合うように帰ったらいいよー」っていう感じで僕を受け入れてくれたのが嬉しくて。
大西:
「せっかく来てくれたんだし、この際ラストオーダーとかそういう堅っ苦しいことはいいや」と思ってね。
岩本:
それで、ここ(渦)でまた改めてラーメンを食べたら、物産展のときとは違う味で、やっぱり美味くって。そこから(渦のラーメンの)虜になっちゃったんすよね。年に何回か横浜に行くときは必ず彼に会いに行って、ラーメン食べて……っていうのが、僕の中では普通のことになって。やっぱり「(大西さんに)会いたいな」って。
大西:
名残惜しいんだよね! 来たなーと思ったらすぐ帰っちゃうからさ。「全然話できなかった〜」って。
岩本:
いつも言ってたもんね、「いつかゆっくり飲もうよ」って。先に酔い潰れたほうを砂浜に埋めるぞ、とか言ったりして(笑)
大西:
そんなことも言ってたね〜(笑)
そんなふうにやり取りしてた頃に、彼が「仕事を辞めようと思う」って言ってきて。「そうか、家族のそばに居られるしいいかもね」なんて言ったら、「飲食をやろうと思ってる」って。
この男は地元・愛媛県松山市が大好きなんですよ(大西)
大西:
「飲食なら向いてると思うし、いいと思うよ」って返事したら、「ラーメンやりたいんだ」って言うんです。「そうか、それじゃ協力するよ」って言ったら、「仕事としてお願いしたい」って。僕も彼のことが好きだったし、「期待以上のものを作ってあげたいな」って。
それが今からだいたい1年ぐらい前ですかね。それで、「どんなもの作る?」って話もして。その中で思ったんですけど、この男は地元・愛媛県松山市が大好きなんですよ。
岩本:
言葉は良くないですけど、松山は観光地なので、極端な話、放っておいてもお客さんが来るんですよね。だからなのか、いいものを出している飲食店は必ずしも多くなくて。せっかく愛媛までみんな来てくれてるのに、中途半端なものを出して「あぁこんなもんか」って思われて帰っていかれるのが僕個人はすごく嫌で。
だから、地元愛媛のものを使って、それをちゃんとした形でお出しして、「愛媛って、四国ってこんなに美味しいものがあるんだ」って思ってもらえるようなものが作りたくて。地域活性化じゃないですけど、そういうことを本気で考えるようになっちゃったんです。
でも、どうやってそれをやろうか。飲食は素人ですから、そういう知識とかも全く分かっていなかった。そうなったとき、自然と浮かんだのが彼でした。全国を周っていろいろなラーメンを食べてきましたけど、彼のラーメンが好きだし、人としても信用できる人だったから。
岩本:
彼が魂を込めて作るラーメンを僕も受け継いでいきたいし、それを松山に来る人、愛媛に来る人、ひいては愛媛に来るみなさんに楽しんでもらいたい、っていうのがあったので。だから彼(のラーメン)じゃなきゃダメだったんです。 もし彼が焼き鳥屋さんだったら、もうちょっと違ってたかもしれないですね(笑)
大西:
それも面白そうだね〜(笑)愛媛は地鶏も美味いもんね!
岩本:
(笑)だから、僕の中で“人とのつながり”については強い思いがあって。
むかし渦で飲んでた頃に、「もしかしたら将来殴り合いの喧嘩になるかもしれないな」って話をしたことがあったんです。こんな話ができるのも、「お互いに信念は持ってるけど根っこの部分で通じていたから」というか。おこがましい話だけれど、(大西さんとは)結託して手を握ってる仲間だというふうに思っていて。
意見がぶつかることがあったとしても、それで仲違いというか、縁が切れたりするような(関係)ではないなと。今から爺さんになって死ぬまで、ずーっとそんな気がする。
中編へつづく……
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麺や 渦雷
神奈川県藤沢市辻堂新町1-9-7
[営業時間]
11:30〜15:00/18:00〜21:00
[定休日]
月曜日
※月曜日が祝日の場合は営業・翌火曜休み
[お問い合わせ]
Tel: 0466−33−5385
[ウェブサイト]
http://menya-bar-uzu.com/uzurai/
湘南談義録 -SHONAN casual minutes-
気心知れた相手とのおしゃべり。時に笑いながら、またある時には込み上げるものを感じながら……それは湘南の暮らしをよく表しているひとときかもしれません。
この街の生活を彩るものとは、いったいどのようなものなのでしょうか。本コーナーでは、“湘南の良さ”としてしばしば挙げられる「つながり」をテーマに繰り広げられるトークをお届け。海薫るスローライフのエッセンスをご紹介します。
ライター情報
akira suematsu
湘南生まれ湘南育ちの純・湘南ボーイ。そのわりにサーフィンは未経験だが、鵠沼の海が世界で2番目に落ち着く場所である。まだ見ぬ湘南の魅力、そして多様なライフスタイルのあり方を求めて、ペンとカメラを両手に行動範囲を拡大中。
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