「“このカルチャーを壊したくない”っていうのも大きかったんですよね」対談:Fencerx南大治(第2回)
湘南・辻堂では名の通ったカレー屋さんとして知られる「Minami Curry(ミナミカレー)」は、およそ10年もの長い間親しんできた場所を離れ、2016年10月に辻堂駅前へと移転しました。時を同じくして、新たなスタートを切ったのが日本酒DJバー「オフェンバー」です。
浜見山にお店を構えていたMinami Curryを間借りする形で、金曜夜に看板を出していたオフェンバー。しかし、Minami Curryの移転という大きなイベントがいよいよ迫っていました。音楽活動とバーの両立、そして葛藤……今回は、Fencer(フェンサー)さんが当時の心境を語るところからスタートします。
Minami Curryの店主としてその様子を見守っていた南大治さんは、何を思っていたのか。Fencerさん、そしてオフェンバーは“独立”したことで何が変わったのか。そして、その決意の裏にあったものとは……
今は「自分の店だ」って堂々と言える(Fencer)
Fencer:
大治くんも(僕のことを)アーティストとしてずっと応援してくれていて、移転の話の時も音楽活動に支障が出ないように考えてくれたのか「Fencerが無理がないように」って言ってくれて。でも、すぐ決められないなぁ……って半年ぐらい悩んでました。
南:
(移転する)話だけは結構早めに決まってたからね。「別に急いで考える必要はないから、ゆっくり考えてね」って感じだった。まぁでも決まっちゃったことだから、ここもそのままにしておいたら別のお店になってしまうし。
それまで続けてきた中でお客さんもついてきていて、オフェンバー、Minami Curryと「BRIDGE ROOM」とかに集まる人たちの内々で“ハマミヤーマン”っていう言葉が出来ちゃってたからね。
Fencer:
そう、(すでに)カルチャーが出来てきちゃってた。僕が(お店を)引き継ごうと思ったのは、僕自身がお店をやりたかったっていうのもあるけど、「このカルチャーを壊したくない」っていうのも大きかったんですよね。どんどん人の輪も大きくなってきたし。
それに、あの場所で4年近くやらせてもらって、間借りだったとはいえ愛着が湧いてきちゃってて。これをスケルトン(まっさらの状態)にしてしまうのは……って考えると、個人的にはすごく悲しくなってきちゃって。これは引き継がないと、って強く思いましたね。
▲ Fencerさん(音楽アーティスト、「オフェンバー」店主)
――僕が初めてオフェンバーにおじゃましたのは3周年パーティー(2016年2月)の時だったんですが、あの時はもう引き継ぎのことを考えてたんですか?
Fencer:
うん、あの時はもう考えてたし、どうしようかって悩んでたかな。3周年を迎えたとはいえ、当時は複雑な心境で。「この場所がMinami Curryではなくなる、オフェンバーが間借りスタイルではなくなる」っていうことが自分の中では分かってたんだけど、来てくれる人たちは3周年のお祝いに来てるわけで。
これからどうするのか、当時はまだ決めてなかったから、祝ってもらいつつも、“もしかしたら終わっちゃうのか〜”みたいな。むしろ、3周年でやめちゃおうかとも思ったりもしてね。話は前々から聞いてはいたんだけど、(果たしてどうするのか)その時は決まってなかったから。でも、いざ3周年パーティーをやってみて……やっぱり(お店を)やろう、って。
実際引き継いでみて、音楽活動しながらだと時間的には結構大変だけど、やってよかったなーって思うし、自分のお店になってみて(幅が)広がったかなぁ。自分のキッチンというか、城が出来た。間借りスタイルだと自分だけのお店ではなかったから、発信するにもなかなかできなかったりもしたからね。でも今は「自分の店だ」って堂々と言える。
▲ 「オフェンバー」の様子
――“自分のお店”になってみて、変化はありましたか?
Fencer:
そうだなぁ、思いついたことをすぐに実行できることかな。「これ面白そうだな」ってことが、自分のお店では明日にでも実行できる。平日もやってるんだけど、「平日のユルい雰囲気ならこういうのも面白いんじゃないかな」とか、週末ではできないことをやれたりとか。こういうのは間借りスタイルではできないことですね。
あと、広がり方がぜんぜん違う。いままでいろいろなアーティストさんがDJやライブをしに来てくれたけど、その人たちに声を掛けるたびにいちいち「実はMinami Curryっていうお店があって……」みたいに説明しなくちゃいけなくて、それが結構伝わりにくかった。こっちは理解していても、周りにはなかなか伝わらなかったりもしますし。
それが今では「オフェンバーはFencerの店なんだよね?」っていうふうに伝わりやすくなってるから、そこから広がり方も違ってきてるのかなーって。
――なるほど。ところで、お2人の関係においては“お酒”もキーワードなのではないかと思います。
Fencer:
そうですね。大治くんもお酒が好きだし、お酒でつながってるのは大きいかなぁ。「音と酒」っていうキーワードでオフェンバーもやってるんですけど、大治くんとは正に音楽とお酒でつながってるなーって感じがしますね。
▲ お店の外に下げられている“音と酒”は「オフェンバー」のキーワード
――お酒とカレーと音楽と。……ここまでカレーの話はカレー鍋ぐらいしか出てきてないんですけどね(笑)
南:
(笑)なんだろう、もうカレーは身近にあるものだしね。きょうもさっきまで仕込んでたりしたし。俺にとってカレーは日常的すぎるものだから。
たとえば、俺単体でインタビューを受けるとしたらカレーの話も当然出てくるんだろうけど、Fencerも週1ぐらいのペースで今でも食べに来てくれてるから、ウチのカレーについては知り尽くしてるし、今更カレーの話をする必要もないというか(笑)
Fencer:
今回は湘南をテーマにこうやって話をしてるけど、改めて「どうですか?」って言われると……居心地がいい以外になかなか思い浮かばないですよね。
僕は大阪に住んでた頃、関東に対するイメージでは、「東京も神奈川も一緒じゃん」とか思ってたけど、住んでみると(湘南は)東京とぜんぜん違うように感じます。
ユルいとはいっても田舎に住んでる感覚ではないよね(南)
Fencer:
湘南はみんなゆるくて、肩の力を抜いて過ごしてる。生活するには過ごしやすいけど、仕事に対するモチベーションはあんまり上がんないというか。だから、たまには東京に行かないと……とか思うし。でも、みんなが気合入ってる感じのあの東京の渦はなかなかね……
南:
人の動きっていうか、スピードが違うなぁって感じるね。でも、こっちに来てもう12〜3年になるし、東京の生活に戻るっていうのはもうちょっと難しいかな。
Fencer:
僕も大阪(の生活)に戻る、っていうのは厳しいですね。
その雰囲気がそれぞれに合っていればいいんだけど、自分の場合は都会の暮らしに対する興味だったり、憧れみたいなものが完全になくなっちゃいましたね。
日本全国いろんなところに住んだわけじゃないけど、湘南はすごく住みやすい街なんじゃないですかね。人も適度に都会的な感覚を持ってるし、自然にしてみても、富士山が見えて、江ノ島があって、海があって……。
▲ 南大治さん(「Minami Curry」店主)
南:
この辺りの人たちって夏になるとサーフィンとか関係なしに海に行って、足の裏とか砂だらけになって、お店の中が砂だらけになることとかってよくあるんですよ。でも、そんなことでいちいち腹立ててもしょうがないし、ここは湘南なんだから海に行って当然だよね。むしろ、「きょうは天気良かったから、海は気持ちよかっただろうなぁ」みたいに思う。
これがもし湘南じゃなくて、土だらけ、砂だらけの靴で入ってきて、お店の中を汚されたとかだったら怒ると思うんだよね(笑)そういうところからして(湘南は)ユルいんだと思う。
あと、東京にいたときの会社にサーフィンやってる人がいて、会社を辞める前に「湘南はローカリズムがキツい人がいるよ」って聞いてたんだけど、実際に引っ越してみたら全然そんなことなかったね。
Fencer:
僕もそういうのはあんまり感じたことないですね。サーフィンやってないからわからないのかもしれないけど(笑)土地的な環境もいいけど、住んでる人がみんなナイスな人たちばかりですね。
南:
それに、こっちに引っ越してきてみて、「田舎にいる」っていう感覚もないしね。「住みたい街ランキング」で1位になったりしてるみたいだけど、そういうところも理由に挙がってるみたい。確かに、ユルいとはいっても田舎に住んでる感覚ではないよね。
Fencer:
僕も大阪に住んでた頃は、故郷の福井に帰って、そこからまた大阪に戻ってくると「あぁ、これからまた頑張らなきゃ」って思ってたけど、湘南に住んでからは、こっちに戻ってきても「帰ってきたな」って感覚ですね。もちろん福井は故郷だから当たり前なんだけど、(湘南でそれを感じたのは)なんか不思議な感じです。
――よく言われることですが、“程よい距離感”があるからなんでしょうか。近すぎもせず、かといって遠くもないような。
Fencer:
あー、みんな人と人との間の距離感を取るのが上手ですよね。田舎だとすごく近いからね(笑)
南:
逆に、東京だと出くわす人がみんな他人だから、「もう何やったって関係ない」みたいな。だから、独り言を言いながら歩いてる人も多いんだと思うんですよ。ヘタすりゃ自分もそうなってたっていう時期があるもん。そのぐらい、人が明らかに多すぎる。
Fencer:
それに湘南の人たちって自分たちの街の良さをよく分かってるなぁって思いますね。東京に対してそんなに憧れを持ってない、というか(笑)そんな気がします。
南:
「すごいな」って思うよね。たとえば、茅ヶ崎は茅ヶ崎の人々からすっごく愛されてる。みんな地元に対する愛着がすごくあるなぁ、って。東京まで働きに出てても、こっちから通ってる人ってすっごく多いよね。
Fencer:
いやぁ、その価値ありって感じですね。
Fencerさんが浜見山の店舗を引き継いだのには、オフェンバーに集まっていた人々の存在がありました。彼らが、そしてお2人が暮らす湘南という街はスローで豊かなムードが漂っており、そんな土壌が“ハマミヤーマン”文化を育てていったのかもしれません。
次回はお2人の“取り組む姿勢”にフォーカス。カレーと音楽、フィールドの異なるものづくりに見出される共通点を探ります。
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Minami Curry
神奈川県藤沢市辻堂2−11-6
OPEN:
11:00〜15:00 / 17:00〜21:00(平日・土曜)
11:00〜16:00(日曜)
L.O. … 各営業時間の終了30分前
CLOSE:
月曜、毎月最終日曜
Tel: 0466-53-7287
Facebook: Minami Curry
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オフェンバー
神奈川県藤沢市辻堂5-20-16
OPEN:
19:00〜26:00(平日・土曜)
12:00〜18:00(日曜)
CLOSE:
月曜
Tel: 0466-47-7375
Facebook: @ofenbar
Instagram: @ofenber222
湘南談義録 -SHONAN casual minutes-
気心知れた相手とのおしゃべり。時に笑いながら、またある時には込み上げるものを感じながら……それは湘南の暮らしをよく表しているひとときかもしれません。
この街の生活を彩るものとは、いったいどのようなものなのでしょうか。本コーナーでは、“湘南の良さ”としてしばしば挙げられる「つながり」をテーマに繰り広げられるトークをお届け。海薫るスローライフのエッセンスをご紹介します。
ライター情報
akira suematsu
湘南生まれ湘南育ちの純・湘南ボーイ。そのわりにサーフィンは未経験だが、鵠沼の海が世界で2番目に落ち着く場所である。まだ見ぬ湘南の魅力、そして多様なライフスタイルのあり方を求めて、ペンとカメラを両手に行動範囲を拡大中。
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