作り手の顔が見えるモノ選び
好きだった鵠沼海岸の八百屋さん。最近はずっとシャッターが下りていて、先日ついに更地になってしまいました。昔ながらの八百屋さんで、野菜につけられた手書きPOPがユニークな上に、おじいちゃん店主との会話が楽しくてよく通っていました。
「今日のナスは美人三姉妹だよ〜」
「キャベツ大きすぎる? じゃあ半分にカットしてあげるよ」
新聞紙にクルクルっと巻かれる野菜は、おじいちゃんの魔法がかかったように深みがあって美味しかった記憶。
最近はスーパーの会計さえ、セルフレジになったり、インターネットでモノを買うことも増え、人と人の触れ合いが乏しくなったように思います。そんな時代でも、本当に良いものを手間暇かけて作ったり、地産地消を心がけていたり、売り手と買い手のコミュニケーションのある場が好きです。今回は地元で3つのお気に入りをご紹介。
月に数回、野菜などの農作物を片瀬で出店しているNa Harvestさん。ご実家が長野県・信州中野の農家という店主が、直接現地に仕入れに行ったり、ご自身で育てた農作物をご自宅の前で販売されています。
長野県は私にとっても故郷のような愛着のある場所で、豊かな自然に囲まれた農作物の美味しさは一級品。新鮮野菜のほか、お米や果物、豆類、調味料なども並び、その多くは無農薬、無添加でじっくり手がけられたもの。野菜が育った畑の話を聞かせてくれたり、珍しい野菜のオススメの調理法を教えてもらったりと、買い物も料理も、ただスーパーで買うよりぐっと楽しみが増すのです。
そんな食材と合わせて、最近出番の多い調味料は藤沢市の特産になりつつある「鵠沼 魚醤」。片瀬漁港に水揚げされた新鮮なイワシをその日のうちに塩漬けし、1年じっくり熟成させた天然の旨味調味料です。ナンプラーのような存在だけれど、臭みはなく、塩や醤油のようになんでも使えてしまう。野菜炒めにも、ドレッシングにも、浅漬けにも、パスタにも、ほんの少し加えるだけで深いコクが出る万能調味料なのです。大量生産はせず、地元の飲食店のシェフたちからも愛されているそう。藤沢駅構内で購入できるので、ちょっとしたお土産としても重宝しています。
最後に、藍染めのリトマスさん。存在は知りつつも、なかなか実物を見る機会のなかった、本鵠沼に工房をもつ藍染めブランドです。天然素材のみで自然の醗酵を促す、日本古来の染色技法「灰汁醗酵建て」を受け継ぎ、日本の藍の色を表現しているリトマス。先日、茅ヶ崎のokeba galleryにて開催された展示販売会に足を運び、モノづくりの背景を伺いながら、お買い物をしてきました。仕上がりまでの行程は途方もなく長い時間と人の手がかけられていて、衣類というより、芸術品のように、ひとつとして同じ色がない藍の色味に惚れ惚れしてしまいました。
失われつつある伝統的な手法を次世代へと継承しつつ、ストリート風なアートワークを組み入れたりとオリジナリティと遊び心が詰まった作品の数々。
普段洋服はあまり買わないけれど、こういう出合いは大切に、一枚のリネンのシャツを選びました。ボタンもウォルナットの木から作られたものを藍で染めているそうです。身につけるうちに、色がどう馴染み、変化していくのか、とっても楽しみです。
海の近くの自由でフレンドリーな空気感が、こうした独自の発想を育てるのでしょうか。どこでどのようにどんな原料から作られているかわからない大量生産の商品ではない、ルーツとコンセプトが見える、血の通った買い物を続けたいものです。
あの路地を曲がれば。〜雑誌編集者の鵠沼ライフ〜
鵠沼の自然を感じながら暮らす編集者が、
当コラムの執筆者、尾日向さんの発行しているスノーカルチャー誌
『Stuben Magazine』の公式ウェブサイトはこちら:http://stuben.upas.jp
ライター情報
尾日向 梨沙
編集者。東京都出身、藤沢市鵠沼在住。出版社勤務を経て、現在はフリーランスでウィンタースポーツを専門に取材、執筆。2015年に北海道ニセコの写真家とともにスノーカルチャー誌『Stuben Magazine』を発行。2019年より鵠沼の国登録有形文化財と周辺の緑を守る活動を開始。『松の杜くげぬま』管理人として様々なイベントを開催している
https://www.facebook.com/matsunomorikugenuma
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