湘南談義録 -SHONAN casual minutes-

「『わたし、またお店やってみよう』って思ったの」対談:「TRUST ARCHER」x「【和】nico」(中編)

小田急・本鵠沼駅からはす池の方へと延びる商店街の一角に、こぢんまりとした昔ながらの建物があるのをご存知でしょうか? 昼間は薬膳料理が味わえる「【和】nico(ニコ)」が、そして夜には無国籍料理とお酒が楽しめる「TRUST ARCHER(トラスト・アーチャー)」が、2017年の初めからそれぞれの時間帯でオープンしています。

夜にはしんと静まり返っていた商店街に、「TRUST ARCHER」がオープンしてからは陽気な笑い声と赤提灯の光が届くようになりました。しかしながら、もとは「【和】nico」だけが暖簾を掲げていたこの小さな佇まいに「TRUST ARCHER」がやってきた経緯とはどのようなものだったのでしょうか。

中編は、ごとうゆみこさん(「和ニコ食堂」)が心境の変化を語るところからスタートします。しいねけんじさん(「TRUST ARCHER」)が料理人としての喜びを感じていたそのとき、同じく料理人としてキッチンに立つ彼女は何を思っていたのでしょうか?

ごとうさん(以下、ゆみこ):
わたしはケンジくんのごはんを食べたことがあったりして、その中でケンジくんの「ごはん屋さんをやりたい」っていう想いは当然感じてたの。でも、2年前(2015年)のある時に「nico」の建物を取り壊すことが決まって。その時は何が起こってるのか自分でもよく分からなかった。だから「考えるのやめよー」って思ったりもしたけど、でも一生懸命やろうって決めてて。そんな中でケンジくんにも言ったんだ、「実は(お店が)なくなっちゃうんだよ」って。

いろんな経緯があったんだけど、「お店を続けてくことをやめようと思うんだよね」ってケンジくんに話したんだ。仕事の話、夢の話とかしてた中で、ポロッと。でも、ケンジくんもいつかは自分のお店を開きたいっていう想いを持ちながらこっち(湘南)に来てたのね。

前から「いつか面白いことが一緒にできたらいいですね」って話をしてたりとか、ケンジくんのごはんを私が食べにいったりしてね。同じようにごはんを作ってる身として、彼は大先輩なんです。ケンジくんのごはんを食べた時に、はぁー……って、こう、わたしケンジくんが作るごはんに最初から恋をしてたんじゃないかな。

  • ▲ ごとうゆみこさん(「和ニコ食堂」)

ゆみこ:
そんな中でヨウスケさんを紹介してもらって、3人で遊びに行ったりとかもして。集まったその日に都内とか行っちゃうんですよ。「あれが食いたいな、よし行くぞケンちゃん!」っていうふうに、自分で車を運転して。そしたら次は「横浜にカッコいいバーがあるから行くぞ!」って、そのまま移動したり。1日でそんなに移動する? ってぐらい、エネルギーのある人だったんです。

いろーんなことがあった時期に、縁とタイミングが重なって。でもケンジくんが「ここ(お店の建物)を使って、12月31日まで精一杯、もっともっと魂入れよう」って言ってくれて。わたし、お店作るのやめようって本当に思ってたんだけど、彼の言葉で胸のあたりがポッて熱くなって、火が点いた感じがしたのね。そのとき「わたし、またお店やってみよう」って思ったの。だから、ケンジくんとお店に立たせてもらおうって思いました。

ゆみこ:
だから、そこ(「TRUST ARCHER」開店)に向かうまで急だったと思うんです。ケンジくんに話をしたのが10月末で、「TRUST ARCHER」をオープンしたのが(2017年)1月。お客さまに告知するにも、それまでの経緯をなかなか話せないまま始まったの。だから、いまこうやって経緯を聞いてくださるのは本当にありがたいです。

「この場所を使って、人の心も何もかも動かす料理と、場所と、空間を作ろう」って言ってくれて、わたしすごく「がんばろ」って思えたの。大先輩と一緒に現場に立つといろいろ大変だったりもするけど、本当にありがたいです。

ゆみこ:
ヨウスケさんと3人でよく一緒にいたけど、その時よりもお話する時間がいっぱい増えたよね。だから、ヨウスケさんの存在もすっごく大きいと思う。それが(「TRUST ARCHER」オープンの)きっかけかなぁ。ケンジくんが、この場所に更に活気を与えてくれて。

しいねさん(以下、ケンジ):
……過去だけでかなりなげえなぁ(笑)

ゆみこ:
うん(笑)でも、これがすごく大事な話なんです。ねー?  もう、怒涛です(笑)

ケンジ:
でも、もう「nico」っていうめちゃくちゃカッコいいベースがあるから、後は僕とゆみさんの色を掛け合わせていったというか、それを積み重ねてる……みたいな。

お店の名前も、僕はヨウスケさんのごはんのこともあって「人の心を射抜きてえな」って思ったんです。「ARCHER」っていう言葉も、意味も、響きもすげー好きで。「(人の)何を射抜こうかな」って思ってたら、ゆみさんが「“信じること”。人の心の核じゃない?」って言ってくれて。それで、「TRUST」っていう言葉をくれたんです。

「believe」も「信じる」って意味ですけど、「TRUST」は「“無条件に”信じる」。心の底から無条件に信じます、ってときに「TRUST」になるんですよね。

ゆみこ:
自分も信じて相手も信じないと、たぶん人の心は射抜けないと思うんです。

ケンジ:
「TRUST」を漢字に置き換えた時に「信」っていうのが少しピンとこなくて、代わりに浮かんだのが「真」だったんですよ。僕らはそれぞれ、人の「真」を射抜けるような職人になりたかったし、なりたいし、そうであり続けたいし、それがやりたいことだから。“芯を射抜く”とか“信じて射抜く”とか、仲間を信じ合うイメージも込めて「TRUST」なんです。

大切なのは仲間、心、通じる。お客さんもそう。個々でつながっていきたいというか、“いっぱいいる中の1人”じゃなくて。“俺らだからできること”が大事なんじゃねえかなって。そういう意味で付けた名前が「TRUST ARCHER」。すげーピンと来ました。

17歳とか18歳ぐらいのときから僕はずっと無国籍料理を「サンフェスタ」(福島)っていうお店でやってたんですけど、そういう僕のバックボーンもあるし、あんまり(ひとつのジャンルに)囚われたくないというか。

ケンジ:
(自分にとっての「無国籍料理」は)「ジャンルフリー」って意味で。自由。自分のコンセプトは「グッとくる料理」。味付けもそうだし、僕のゴールは「グッと来るかどうか」なんですよ。

だから、たとえば「エスニック感が無きゃダメ」とか全然そんなことなくて、季節の美味いものとかも使いながら、自分の中にあるもの、自分が見てきたものを掛け合わせて生まれてくるものとかも出したい。

最初は切り貼りのメニューで、毎日切って、貼って、コピーして。原本がどんどん分厚くなってくんですよね(笑)それからメニューを書にするスタイルに切り替えたんですけど、これも書いては貼り替えて。積み重ねていった結果、結局僕のノートも分厚くなって(笑)

――毎回、手書きですもんね。

ケンジ:
そう。「“無国籍創像料理”ってどういうこと?」って思われがちなんですけど、基本的にすげーシンプルで、「グッとくるメシ」。この世にまだないメシもそう、みたいな。

ゆみこ:
でも、季節感は大事にしてるよね。旬のものとかさ。

しいねさんが帰郷を考えていたとき、ごとうさんも店をたたむという選択をしようとしていました。しかし、しいねさんの熱い想いに共鳴した彼女は気持ちを新たにキッチンへと立つ決意を固めたのです。

そして、いよいよ動き始めた「TRUST ARCHER」の歴史。後編ではこれからのお店、将来像へと話題が移ります。

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