「ラーメンやりましょうよ。カリフォルニアで」対談:大西芳実x武田双雲(第1回)
書道家の武田双雲さんが鵠沼海岸にオープンしたカフェギャラリー「Chikyu(地球)」。このお店の取材でおじゃましたとき、双雲さんが鵠沼の人気店「麺やBar 渦」のファンだという話題になりました。
“食材に対するこだわり”という共通点がそれぞれを結び合わせ、双雲さんと大西さん、そして「Chikyu」のスタッフであるエディーさんと、双雲さんの個展のプロデュースを手掛けるミチコさんによる談義が実現。その様子をお届けします。
一流のアスリートとしゃべってるみたいですね(双雲)
双雲さんは「Chikyu」のコーヒーで大西さんをお出迎え。オーガニック製法で作られたQグレード(世界最高品質)のコーヒー豆を使用しています。
対して、大西さんは自家製麺を持参。この麺をきっかけに、2人の食に関する談義が始まります。
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大西:
いろいろな種類を混ぜてはいるんですが、1割ぐらい入れるとその粉の特徴が出てきます。だから「こういう麺でいこう!」って決めたら、あとは粉の特徴を混ぜて、味を編み出していくんです。
製麺を始めて2年ぐらいになりますが、僕の中では最初からこうやって作っているので、(このやり方が)普通だと思っています。「渦」本店はいまも製麺所から麺を戴いてるんですが、(2号店の)「渦雷」ではこの自家製麺を出してますよ。
もう、(自家製麺は)全然違いますよ。ぜんっぜん違う。
双雲:
へぇ〜。やっぱりこっちの方が全然美味しいんですか?
大西:
そうですね!美味しくなかったらお店に出してないですよ(笑)
▲ 武田双雲さん(書道家)
双雲:
すごいなぁ、麺のちょっとした違いとかにハマっちゃったんだ。
「ラーメンの味はスープ、麺は噛みごたえや伸び縮み」っていうイメージがあるんですけど、麺が違うと味も変わっていくものなんですか?
大西:
味も変わりますよ。麺の味もスープに溶け出してくるので、麺が旨くなるとラーメン自体も美味しくなるんです。いや〜、麺はすっげえ面白いですよ。
ラーメンをトータルパッケージとして考えてみたとき、スープが旨ければ全体を覆い尽くしてくれるのか? っていうと、そうじゃない。個々のバランスがあって、旨味の相乗効果で掛け算になっていくんです。
双雲:
なんか、アスリートとしゃべってるみたい。一流のスポーツ選手と対談してる気分です(笑)
ただ、こういう(食べ物の)世界ってスポーツと違って数字が出ないですからね。書道界もそうで、すごい人たちはいっぱいいるんだけど、「そういう人たちが本当に人々の心を打つか?」といったら、結局はリレーションシップなんですよ。いくら作り手が熱くても、受け手側にそれを好きな人がいるかいないかで変わりますからね。
大西:
“何にとって一番か”“どこを求めているか”っていうのはありますね。お店自体はあんまり流行ってないんだけど、同業者の間ではすっごく尊敬を集めてる人もいるんです。そういう人たちとのお話はすっごく面白いですね。
オーガニックラーメンって…ないですね(大西)
▲ 大西芳実さん(「麺やBar 渦」「麺や 渦雷」店主)
話題はやがて、「Chikyu」誕生の経緯に。エディーさんも交えて、「Chikyu」のキーワードでもあるオーガニックについてのお話に移ります。
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双雲:
もともと「アメリカで(お店を)やろう」っていう話があったんです。西海岸とか、ニューヨークとかで。いろいろあってここ(鵠沼海岸)からスタートしましたけど、これから西海岸に(「Chikyu」のスタイルを)持っていこうとしてるところなんです。
カフェだとありきたりだから、アメリカに持っていくものは変えますけどね。日本食とか、お寿司とか。それで、エディーさんと「何を持っていこうか」って話をしてたときに出たのが「オーガニックラーメン」だったんです。
大西:
オーガニックラーメンって……(今までに)ないですね。
オーガニックの定義ってものすごく曖昧なんですけど、日本語だと「有機」になるんですよね?
エディー:
アメリカだと(オーガニックの定義は)もうちょっと広いですね。USDA(アメリカ合衆国農務省)の判断基準だと「ケミカル(農薬など)を一切使ってない」とか、“ナチュラルなもので暮らしていく”っていう生活様式のひとつにもなってるし。
双雲:
オーガニックで野菜を作ってる農家さんは「(農薬を)使う理由が分からない」って言うんですよ。“奇跡のリンゴ”の木村(秋則)さんがフィーチャーされてますけど、無農薬で出来ちゃったら「じゃあなんで(農薬を)使うんだ」って話になっちゃいますよね。
▲ エディーさん(「Chikyu」シェフ)
双雲:
……いやぁ、オーガニックラーメンやりましょうよ。カリフォルニアで。8月に僕らがイチ押しの街に行くので、もし時間が合えば一緒に行けたらいいな、って思うんですけど。
大西:
8月……いいですね。どれくらい行くんですか?
双雲:
1週間以上は行きたいなって思うんですけど、このお店もまだ始めたばっかりなので、長めに行くのはちょっとキツいかも(笑)
まぁ、もしよければ途中から参加されてもいいしね。本当に素敵な街なんですよ。
大西:
はい、ぜひ声掛けてください。
海外のラーメンもなかなかねぇ……僕、メルボルンでやらせてもらったことがあるんですけど、輸入に頼ったりすると本当に無理ですね。材料がオーストラリアにないんですよ。煮干しすらなくて。
▲ ミチコさん(双雲さんの個展プロデューサー)
ミチコ:
えっ、煮干しも(オーストラリア国内に)売ってないんですか?
大西:
なかったんですよね。それに、昆布は輸入が禁止されてるんですよ。ちょっと調べてみたら、(国産の)昆布に含まれてるヨウ素とヒ素の成分が国際基準を上回っちゃってるみたいで。日本のものは成分が強すぎちゃって、入れられないみたいなんです。
ミチコ:
カリフォルニアは結構ありますよ、煮干しも昆布も。生産の段階で何も手を加えないようなものも。
大西:
なるほど……僕もちょっとツテを辿ってみますね。
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このあと、大西さんは昆布や塩、そして醤油について語り始めます。呼称と製法の関係性や扱い方についての話に熱が入り、「Chikyu」のシェフであるエディーさん始め、各々は大西さんの熱い語り部に引き込まれていきました。
次回は「オーガニック」をキーワードに話題が展開されます。お楽しみに。
湘南談義録 -SHONAN casual minutes-
気心知れた相手とのおしゃべり。時に笑いながら、またある時には込み上げるものを感じながら……それは湘南の暮らしをよく表しているひとときかもしれません。
この街の生活を彩るものとは、いったいどのようなものなのでしょうか。本コーナーでは、“湘南の良さ”としてしばしば挙げられる「つながり」をテーマに繰り広げられるトークをお届け。海薫るスローライフのエッセンスをご紹介します。
ライター情報
akira suematsu
湘南生まれ湘南育ちの純・湘南ボーイ。そのわりにサーフィンは未経験だが、鵠沼の海が世界で2番目に落ち着く場所である。まだ見ぬ湘南の魅力、そして多様なライフスタイルのあり方を求めて、ペンとカメラを両手に行動範囲を拡大中。
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