お祭り好き園主が目指す地産地消の輪。〜茅ヶ崎どっこいファーム~

「このトマトの色がキレイでしょ?グラデーションになっていて」1つ1つの野菜を丁寧に紹介しながら畑を案内してくれたのは、茅ヶ崎どっこいファーム園主である吉野正人さん。

今年で6年目を迎えるこの農園では、農薬や肥料に頼らないオーガニック野菜を育てており、年間で約55種類もの野菜を出荷しています。おいしいと評判の吉野さんが育てる野菜はどのようにして生まれるのか。吉野さんにお話を伺ってきました。

お神輿を担ぐ掛け声から名付けられた、生粋のお祭り男が営む農園

「茅ヶ崎に住んでみてどう? 楽しい? なんだかこっちが取材してるみたいだね!」お互いの挨拶が終わってすぐに、吉野さんから、茅ヶ崎へきて半年の私へのインタビューが始まりました。私が話す茅ヶ崎の印象や住んでみた感想などを聞く吉野さんは、なんだか興味津々の様子です。

「来たばっかりじゃ知らないよね!」と取り出したのは浜降祭の記事が載っているフリーペーパー。浜降祭とは、寒川町と茅ヶ崎市の各神社から、約40基のお神輿が夜明けとともに西浜海岸に集結するという神事。毎年海の日(今年は7月17日)に行われる湘南最大のお祭りで、コロナウイルス流行に伴い今回は4年ぶりの開催。なんと吉野さんはこのお祭りにも参加している八大龍王神の神輿保存会の会長でもあり、今まさに畑とお祭りの準備でテンションは上がりっぱなしだそうです。

「どっこいどっこいってお神輿を担ぐでしょ? 茅ヶ崎どっこいファームの名前の由来はこの掛け声なんだよ!」
なるほど、生粋のお祭り男が営む農園、ということですね。

東京・浅草から茅ヶ崎へ、そして農園設立に至るまで

海が大好きだという吉野さん。東京・浅草で生まれ育ち、社会人になってからは湘南の海辺暮らし。当時は高校の教員として働いていましたが、26年前に茅ヶ崎に移り住んだことがきっかけで市民農園で野菜作りの楽しさを覚え、ついには職場の学校でも空き地を開墾して畑にしてしまうほどに。

「始めてみたらとても面白く、ハマったらとことんやりたくなっちゃう性格なんですよね」

さらに本格的な野菜作りをめざした吉野さんは、自分の農園を持ちたいと2年間の農業研修まで受けて農家として独立。研修を受けたとはいえ実績はもちろんツテがあるわけでもなかったという吉野さん。新規就農の難しさを実感したとのことですが、お神輿や地元の仲間に相談してみたところ、あれよあれよと情報が集まり、農地も見つかり開園まで辿り着いたとのこと。

「“お祭り男の勢い”でしょうね。周りの仲間の協力には本当に感謝しています」

循環型農業で育てるオーガニック野菜

茅ヶ崎どっこいファームは農薬や化学肥料を使わない、いわゆるオーガニック野菜を育てています。

「殺虫剤は虫を殺すもの、化学肥料は育ちを良くするいわばサプリみたいなもので、どちらも人間の都合で手を加えているものなんです」と吉野さん。

では、どのようにして野菜が元気に育つのか。その答えは「古の智恵」と吉野さんの人脈によるものでした。

畑の隣にある工場から出る剪定枝のチップを、創業150年を誇る地元の酒蔵「熊澤酒造」から、酒かす・ビールかすを、お祭り仲間の地元の米屋さんから米ヌカを譲ってもらい、それらを混ぜてオリジナルの肥料を作ったり、気温が低い時期の温床に利用します。発酵熱で暖房効果があり、冬でも苗がすくすく育ちます。冬が終わったら、温床でたくさんの微生物が作ってくれたチップの堆肥を畑の土へ混ぜていきます。微生物で土が肥え、肥料を使わなくてもとびきりの栄養分が野菜へ吸収されていくのです。

「廃棄されてしまうものであっても使い方によっては、ものすごいパワーを秘めているんですよ。そして、やっぱり昔の人の智恵はすごい。電熱や化学製品に頼らずに自然由来のもので、美味しい野菜作りができるんですから」

そして吉野さんはもう一つの循環を目指しています。

「茅ヶ崎で巡らせたいんです。茅ヶ崎に住んで、茅ヶ崎の土地で野菜を作り、それを茅ヶ崎の人に食べてもらう。そんな地産地消の輪、つながりを大切にしていきたいですね」

吉野さんの野菜のおいしさ

「オーガニック野菜は、自然の力のみで育つので成長がゆっくりです。ペースを無理やりコントロールしていない分、1つ1つに栄養が凝縮され、とても濃い味に育ちます。効率が悪いように思えるかもしれないけど、その分おいしい野菜が育つんですよ。
 
当然、殺虫剤を使わないと虫がつくこともあるし、ネットなどで対策しても収穫間近で鳥に食べられてしまうなんてことも多々あります。そういう事が続くと正直ガックリきちゃいますが、それ以上に野菜を育てていくことは楽しいし、苦労があるからのおいしさだと思うので、黙々と日々対策…ですね」

「実際に食べてみて」と、お土産にたくさんのお野菜をいただきました。今まさに土の中から引き抜かれた、採れたての葉や土がついたままのお野菜。スーパーでは見られない野菜本来の姿に、なんだか嬉しくなります。

まず、驚くのが香りの強さ。にんじんは包丁を入れた瞬間にぶわっと香りが広がり、じゃがいもは焼き始めたら甘い香りが漂います。吉野さんオススメの「味付けは最小限に、じっくりグリル」をにんじんとじゃがいもで実践。なにも味付けせずに焼いただけですが、話にあった通り味がとても濃く、甘みがあり、ほっくりとしていて、こんなにも分かりやすく違いがでるものなんだと改めて自然の力に驚かされました。

「いずれは、この農園にたくさん人が集まって、みんなで野菜を作って、みんなで食べる、みんなで分ける。そんな楽しい場になればいいなと思っています」と吉野さん。

自然に感謝し、つながりに感謝しながら、吉野さんは今日も野菜と向き合います。野菜に対する吉野さんの想いと、古の智恵がたっぷりつまったオーガニック野菜。体が喜ぶ野菜本来のおいしさを、ぜひ体験してください。

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