“ぐるん”と大きなひとつの家族。小規模多機能ホーム「ぐるんとびー」

閑静な住宅街と、広大な緑の公園が広がる藤沢市大庭。その一角にあるUR団地の一室に拠点を構える小規模多機能ホーム*「ぐるんとびー」を訪ねました。(*介護保険のサービスで、デイサービス、ショートステイ、訪問介護の3つを状況に応じて利用できる。)

ぐるんとびーは、地域に住む人が、生涯その人らしく生活を送るために、リハビリや介護、看護など垣根なく必要なサポートを提供する地域密着型の介護事業所です。団地の空き室を利用する、という日本初の試みに、注目が集まっています。

団地内の一室に入ると、暖かなライトと白色の壁にグリーンをふんだんに取り入れた居心地のよい空間に包まれます。代表の菅原健介さんは、“世界一幸せな国”として知られるデンマークで中高の学生時代を過ごしたそう。心を豊かにするシンプルな生活を大切にするデンマークは、暮らしのお手本。実は、社名・事業所名の「ぐるんとびー」も、デンマークの対話型教育の父ともいわれるNFS・グルントヴィーからいただいたのだとか。対話は、ぐるんとびーがもっとも大切にしていることのひとつです。

  • 緑や公園が豊富な閑静な住宅街にある団地。

  • どのお部屋もシンプルで居心地の良い空間づくりが配慮されています。ここは宿泊も可能。

地域のきずな

菅原さんが地域密着型の介護事業所を始めるきっかけとなったのは、東日本大震災でした。ボランティアナースのコーディネーターとして現地に入り、約1カ月間24時間体制で被災者をサポートしていたという菅原さん。その時に感じたのは、本当に必要なのは専門的な知識や技術よりも、困ったことを何でも相談できる拠点。そして地域の関係者が連携し、それぞれが違った目的や利益を持っていたとしても、対話を重ねること。それは被災地に限らず、高齢社会を支えるどんな地域にも当てはまることだと感じたそう。

その想いをもとに、2012年に地元の神奈川で、訪問を中心とした小規模多機能型の事業所「絆」を立ち上げます。

  • 代表で理学療法士の菅原健介さん。スタッフと対話を重ねながら挑戦を続けます。

「希望」をともに叶える

しかし、しばらくすると、他の看護師との間で考えの違いが浮き彫りになります。利用者さんが希望することは、必ずしも安全な介護の範囲ではないことも。

例えば、利用者さんが「リハビリでプールに行きたい」と言っても、体力が落ちているとリスクをともなうこともあります。けれど、プールで泳ぐことが生きがい、という方の“その人らしい人生”をサポートするためには、時にリスクを取っても叶えたい、と思う部分もあります。

ひとつのルールではなく、対話を重ねながら、その時々の答えを出したい。そんな想いが強くなり、絆から独立して、ぐるんとびーを立ち上げることになります。

ぐるんとびーで働くスタッフは、菅原さんのそういった考え方を共有しています。希望を叶えるためにはどうすれば良いか。できるだけ安全を確保するにはどんな準備ができるか。利用者さんをはじめ、ご家族、事業所のスタッフ、みんなで対話を重ね、その時々の最善策を導くことを選択します。

ひとつの正解はないし、状況によって変化することがある。そして方針を決めるまでに時間もかかる。けれど、人生の大切な選択に寄り添うためには、対話へのコミットメントが欠かせません。

  • 昼食後のひととき。おしゃべりをしたり、読み物をしたり、のんびりと穏やかな時間が流れます。

ひとつの家族

ぐるんとびーを団地の一室に開設したのは、子どもたちを含む地域の人に、もっと介護を身近に感じてほしいから。そして、空き室を事業所だけでなく、勤務するスタッフや、利用者さんが入居できると考えたからです。利用者さん同士がシェアハウスをしたり、シングルマザーの女性が入居者の食事づくりを担当して収入を得るなど、地域の支え合いが発揮されている場面もたくさんあります。

それを支えているのは“迷惑をかけて当たり前”と言う考え方。例えば、認知症の方が自宅の場所がわからなくなっている時には、不安が解消されるまでみんなで一緒に過ごすことも。そうすると、別の方から子育ての悩みがポロリと出てきたり。そのうち、ひとりふたりと帰宅しはじめ、認知症の方も自然と自宅へ帰れるようになる。“迷惑をかけないよう”諭す世の中ですが、実際は頼られる、頼れる人が身近にたくさんいることで、誰もが安心な暮らしを送り、また専門の介護・看護の必要がなくなることもあります。

多世代の方がゆるく集まり、生活する姿は、誰が利用者で誰がスタッフか、はたまた誰の子どもなのか、見分けは尽きません。ここでは、地域が“ぐるんと”ひとつの大きな家族なのです。

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