コンブで海の生態系を取り戻す「里海イニシアティブ」

海にも森があることを、知っていますか?

コンブやワカメなど海藻樹林が生い茂る「藻場」と呼ばれる場所。そこでは魚や貝を始め、さまざまな海の生き物が育まれ、相互に関わり合いながら暮らしています。

海と陸の境にある藻場は、陸から流れてくる汚れを取り除き、海をきれいに保つ役割も果たしています。また地上の森と同じく、光合成により二酸化炭素を吸収し、酸素を排出します。藻場の二酸化炭素吸収は、杉林のなんと5倍もの量に及ぶことがわかっています。

実は、この藻場がいま世界的に失われつつあります。

地球の温暖化や、分解されない汚染物質により、生命の森が徐々に枯れてきているのです。それはつまり、海の生き物のすみかが奪われることであり、また汚染の浄化や二酸化炭素の排出を抑制する力も、働かなくなることを指します。

この危機を食い止めようと活動をするのが「里海イニシアティブ」のみなさんです。今回は、理事・企画室の富本さんにご案内いただきました。

  • この日、例年より遅めの水揚げがあり、採れたばかりのコンブを見せてもらいました。全長4~5mにも伸びたコンブは昨年11月に定植したもの。半年足らずで数mmの種からこれほどまで大きく育つ植物は、陸上にはありません。

海の植物で二酸化炭素を削減

里海イニシアティブは、横浜市金沢漁港を拠点に「藻場」を復活させる取り組みをしています。活動の中心は、漁業者の協力を得てコンブの養殖を行うこと。これにより、海の環境保全と二酸化炭素の削減に貢献しています。2009年に国連環境計画(地球規模の環境保全を主導し、将来の世代に渡って生活の質を改善する役割)によりブルーカーボンが提唱され、里海イニシアティブでも横浜市と共同したカーボン・オフセット活動に取り組んできました。ブルーカーボンとは、海藻や植物プランクトンの働きにより、海洋生態系が二酸化炭素を吸収および固定(体内に取り込み、炭素化合物として同化しとどめておく働き。結果的に、大気中の二酸化炭素が削減)する働きです。

  • コンブは、葉の中の胞子により子孫を残す。葉はその全面で光合成をして糖分を作り、また海水中の栄養素を取り込む。葉面はプランクトンのすみかにもなります。

全国展開を目指し、横浜へ

海藻の養殖に注目し始めたのは、2008年のこと。当時、三重県の英虞湾で真珠の養殖が盛んに行われていましたが、密植や乱獲を繰り返す中でだんだんと海が疲弊してきて、真珠が採れなくなっていました。英虞湾は、かつて地域の人がアサリを捕ったり、釣りをしたり、泳いだり、と暮らしの中で関わり合いながらその多様な恵みと共存してきた「里海」でした。戦後、真珠の国際的な取引が盛んになったことで商業が優占し、生態系への配慮が失われてきた背景があります。そこで、英虞湾の海洋環境を再生するために海藻の養殖を手掛けたのが始まりです。

拠点を横浜に移したのには、理由があります。もっとも制約の多い都市型漁業で、国際的なブルーカーボン事業のモデルケースを作ることが出来れば、全国展開への道が開けると考えたから。海洋環境という大規模な課題に取り組むためには、大きなインパクトを出すことが求められます。

  • 金沢八景近くの金沢漁港。

  • 八景島シーパラダイスのふもとにあるコンブの養殖圃場。

生活者とのつながり

もうひとつの軸として、生産されたコンブを販売・普及する活動も担っています。古くから日本の食卓に欠かせないコンブを現代のライフスタイルに合わせた食として再提案し、健康面のメリットを伝えています。

また、海藻の定植を体験するイベントを各地の漁港で行い、生活者が地域の環境活動に楽しく参加できるような工夫を行っています。湘南の片瀬漁港でも、毎年ワカメやコンブを定植するイベントは、大人から子どもまで広く人気を集めています。もともと湘南に暮らす人には、里海という意識があるため受け入れられやすいと言います。

このように、食卓を通して、またふれあいの体験によって、海の現状を伝え一人ひとりの暮らしとつながっている環境を知ってもらうため、働き掛けています。

  • 漁師さんと一緒に漁船に乗り込み、収穫のお手伝いをします。各所との連携が大切。

  • 収穫体験イベント。育ったコンブの大きさを目の当たりにすると、だれしもテンションが上がります。

横浜での活動が4年目に差し掛かり、連携する漁業者も全国へと広がってきたそう。

「各地で海藻を養殖し、海の保全活動に取り組むだけでなく、持続できるようにその地域にあった事業に育てていく必要があります。」富本さんはそう語ります。

各地で利益を上げられる成功モデルを確立するため、今日もまたコンブとともに奔走します。

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