あの路地を曲がれば。〜雑誌編集者の鵠沼ライフ〜

巨木3兄弟の暮らす庭

今年も雪山シーズンに入ると、良い雪を求めて転々とする生活を送っています。この冬は記録的な暖冬。立春を過ぎてようやく雪不足は解消されてきましたが、どこへ行っても初めて体験するレベルの少雪、暖かさに直面し、気象変動を肌で感じる日々。

たまに鵠沼に戻ってきても、もう梅が咲いてる! もう河津桜が咲いてる! とこちらでも暖冬を実感させられるばかり。そんな冬のある日、庭のエノキの剪定作業を行いました。

以前もここのコラムで紹介しましたが、このエノキは私のお気に入りの巨木なのです。100年以上、同じ場所に根付いているのだと思いますが、私がエノキの存在を意識するようになったのは3年前。それまでこのエノキのあたりは、竹林や雑木で鬱蒼とし、近寄ることもできないジャングル状態でした。下水道の配管工事のために整備した際に新たな道が切り開かれ、巨木たちの全体像もよく見えるようになったというわけです。

これが「エノキ」だと知ったのもこの頃。キノコの「エノキ」が思い浮かびますが、エノキ茸はエノキなどの広葉樹の枯れ木に寄生するそうです。エノキはケヤキと同じニレ科の落葉広葉樹で、神社やお寺にもよく植栽されています。漢字では「木に夏」で「榎」。枝分かれが多く、大きな緑陰を生み出すため「夏に日陰を作る樹」として重宝されたそう。我が家もエノキの先には、西日が強く差し込む和室があり、家を建てた91年前は西日を遮断するために木と建物の位置関係を計算していたのではないかなぁと思います。実際、真夏に和室に入ってもエノキの大きな木陰と海からの風が抜ける向きが合い、エアコンなしでも心地いいくらい。先人の知恵には本当に頭が下がります。

またエノキは秋にはたくさんの甘い実をつけるので「餌の木」からエノキになったという説もあるそう。我が家のエノキにも毎日多種類の鳥が集まり、リスが駆け巡り、その光景を見ているだけで幸せな気分になるもの。庭の生態系を支える大切な存在なのです。

エノキの隣にはクスノキ、その奥にはマツの巨木も控えています。3本とも同じ年月を生きているのでしょうか、この3本はどれもしっかりとした太い幹を備え、それぞれが絡み合って天へと向かっています。20m以上あるであろう一番のっぽのマツに、エノキに寄り添うように絡むクスノキ、大きな象のようにどっしりと構えたエノキ。見る角度によって違う表情を見せる自然の造形美。巨木3兄弟は、いつの日か私の庭散策ルーティーンに欠かせないパワースポットとなりました。この3本を生かしてツリーハウスを作れないかなぁなんて、淡い夢を抱いたりして。

そんなエノキですが私の知る限りでは長いこと手をかけることなく伸び放題。海からの風向きもあるのでしょう、スペースの空いている北側へと枝葉がぐんぐん広がり、左右のバランスを欠いている状態でした。昨今の猛烈な台風で長すぎる枝が折れる心配もあり、マツの高木の剪定でお世話になっている植木屋さんに透かしてもらうことにしました。

エノキの剪定は葉の落ちる真冬が良いのだそう。彼らはクライミングハーネスをつけて登り込みで剪定を行います。(写真の中にいる植木屋さんを見つけてくださいね)。そのアクロバティックな動きにはいつも驚かされますが、まっすぐ伸びるマツとは違い、曲がりくねったエノキにぶら下がる様は、ツリークライミングを楽しんでいるかのよう。もちろん、大きな危険を伴うプロフェッショナルの仕事ですが、あんな高いところからはどんな景色が見えるのだろう、と私もいつか登ってみたくなりました。

このエノキにはものすごい量の蔦が絡みついていました。蔦レベルではなく成長し過ぎた立派な枝が、ピクリとも剥がれず複雑に張り付いて共存。その姿も面白いなぁと呑気に眺めていたのですが、これらの生命力は凄まじく、除去しないとエノキに大きな負担をかけるということで、上の方までビッチリ絡んでいた奴らを綺麗に取ってもらいました。

余分な枝葉を落とし、絡んでいた蔦も無くなったエノキは、より生き生きと嬉しそうに天に伸びていくように見えました。

樹木の剪定がなかなか追いつかず、常に野性味あふれる庭ですが、こうして自然との対話を続けていこうと思います。

最後にお知らせ。2月28日~3月1日は「鵠沼アートフェスティバル」と「藤沢の雛めぐり」という二つのイベントに「松の杜くげぬま」が参加します。この3日間は建物とともにお庭も公開。庭には山茶花や水仙、梅が咲いています。裏の公園には河津桜が例年より一足早い見頃を迎えています。ぜひ巨木3兄弟にも会いにいらしてください。

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