ベトナム出身の店主が目指したのは、誰もが受け入れられる本場のバインミー~辻堂「バインミー パテ」
近年、多くのベトナムの方が日本に滞在していることもあって、フォーや生春巻きなどベトナムフードを提供するベトナム料理屋さんも増えてきました。そんな中、ベトナム版のサンドウィッチと言われる「バインミー」も徐々に知られ、湘南エリアにもバインミー専門店が次々とオープンしています。なかでもバインミー好きに最も高く支持されているお店が、2022年4月に開店した「バインミーパテ」です。
「バインミーパテ」があるのは茅ヶ崎市の赤松町。藤沢市と茅ヶ崎市の境にあり、辻堂駅西口から赤松通りを歩いて約7分。通り沿いにあるインド料理屋さん脇の階段を上がった2階にあります。
▲2階なので分かりにくいですが1階のインド料理屋が目印
笑顔が素敵な女性店主、だがその人生は波乱万丈…
「いらっしゃいませ」と笑顔で出迎えてくれたのが店主の大越美縁(ミエン)さん。美縁さんはベトナム出身で約30年前に来日。長く日本に滞在しているだけあり日本語は流暢、いつも素敵な笑顔を絶やしません。しかしその人生はまさに波乱万丈。並々ならぬ苦労がありました。
美縁さんが来日したのは小学校2年生の頃。母国であるベトナムが政治的混乱にあるなか、美縁さんのお父様はベトナム難民として、単身日本に来日。やがて日本での滞在許可が下りたため、家族をベトナムから呼び寄せ、その時に美縁さんが来日したそうです。
▲普段は女性スタッフと2人でお店を営業
東京~栃木~神奈川~そして結婚して再び栃木から神奈川へ
来日して数カ月は東京・三鷹で暮らすものの、田舎暮らしを希望した美縁さん一家は栃木・烏山へと移住。以降、高校2年生まで烏山で暮らすことに。やがてお父様の仕事の都合で烏山から同じく栃木の鹿沼へと居を移します。鹿沼には美縁さんたちと同じくベトナム難民が集まる集落があったらしく、そこで身を寄せ合うようにして暮らしたそうです。
やがて高校卒業後は、秋田県の短大へ進学。幼稚園の先生となるべく資格を取得し、卒業後は大学の系列でもある、藤沢の「聖園マリア幼稚園」で働きます。これを機に家族全員が藤沢へと移住、さあこのまま湘南に腰を据えたのかというと・・・。
▲美縁さんがバインミーを作る様子をガラス越しに眺められる
▲バインミーとは本来ベトナム語でパンを意味するそう
鹿沼に住んでいた現在のご主人と遠距離恋愛を続けていた美縁さん。結婚を機に再び鹿沼へと戻ることになります。
やがて妊娠・出産。子育てをしながら、ふと「何か手に職をつけておくべき」と思い立った美縁さんは、パン職人の資格を取ることを決意します。そこで美縁さんは再び藤沢に住む両親のもとへ。子どもの面倒を両親に見てもらいながら、専門学校へ2年間通い、パンづくりの資格を取得します。
日本でバインミーが受け入れられていることが刺激に
来日後も時折ベトナムに里帰りしていた美縁さんは、ベトナムでもバインミーをよく食していたそうです。パン作りの修行をしている当初からバインミーを作りたいと思っていたという美縁さんですが、当時の日本では本場の味を楽しめるお店はほとんどなかったと言います。
しかし今から約10年前、高田馬場に本場に近い味のバインミーを出す専門店がオープンします。日本でも本格的なバインミーが受け入れられていることに刺激を受けた美縁さんは、コツコツとバインミーの研究を重ねます。そんな状況の時に世の中はコロナ禍に包まれます。
▲ひとつずつ丁寧に具材をパンにサンドしていく
ステイホーム期間が、大きな飛躍のチャンスに
ステイホームが叫ばれ家に閉じこもる毎日。しかし、この“家にいなければいけない”状況を逆手にとり、日々バインミーづくりに励んだという美縁さん。
「たっぷりの時間を利用してじっくりとバインミーの研究をしました。パンの小麦粉は何を使うか、常温発酵か低温発酵か、またその発酵時間は…。主人がバインミー好きということもあり、一緒にありとあらゆることを研究しました」
そんな努力の結晶ともいえるこちらのバインミーは、パンはもちろん、具材のレバーペーストや豚のハム、大根とニンジンのなますやマヨネーズにいたるまですべてが手作り。出来合いの食材は一切使用していないのがこだわりです。
▲鳥のハムと豚のハムも自家製
▲味に深みを与えるフレーク状にした鳥や豚
レバーペーストが苦手な人も好きになる味を求めて
最も工夫を凝らしたのがレバーペースト。バインミーの味の決め手になるレバーペーストですが、その独特な食感や味わいから好き嫌いが分かれるため、日本国内で提供されるバインミーはレバーペーストを使わないものが多いのだそう。
しかし「できるだけ本場の味を提供したい」と考えていた美縁さんは、レバーペーストが苦手な方でも美味しく食べられるようなバインミーを目指し、試行錯誤を繰り返します。
そんな努力の甲斐もあり「レバーペーストは苦手でしたが、こちらのは美味しく食べられます」というお客さんもいるほど、誰もが受け入れられる本場のバインミーを生み出すことに成功しました。
▲大根とニンジンのなますも味の決め手
▲新鮮な野菜をたっぷりと
さまざまな味を楽しめるのもここならでは!
ベトナムのストリートフードでもあるバインミー。手間を省くためにメニューは1つだけのお店が多いそうですが、こちらでは6種類も用意。レバーペーストが入った看板メニュー「バインミー パテ」をはじめ、海老&アボカドやチャーシュー、照り焼きチキンなど、さまざまな味を楽しむことができます。
そんな魅力いっぱいの同店ですが、取材に伺った日も「いつものバインミー パテにパクチートッピングで」と慣れた様子でオーダーを行う常連さんも見かけるなど、地元を中心にじわじわとその人気が広まっています。かくいう私も一度取材に行ってからというもの、こちらには足繁く通い、かつてベトナムで食べたバインミーを彷彿させる懐かしい味のとりことなっています。
▲メニューは6種類。好きな具材をトッピングで増やすのも可能
「バインミーは庶民のストリートフードということもあり、特に決まりはなく何を具として挟んでもいいんです。パンだけほしいという方もいらっしゃいますが、それでもOK。自分流に好きなものを何でも挟んで、オリジナルなバインミーを楽しんでほしいですね」
▲まさにベトナム美人、笑顔が素敵な美縁さん
自慢のベトナムコーヒーと一緒にイートインもOKですが、ストリートフードらしくやっぱり外でかぶりついてこそのバインミー。近くの公園で、またはサーフィンのおともに海に持参し、海を眺めがながらボリュームたっぷりのベトナムサンドウィッチをがぶり! 波音を聞きながらアジア気分に浸るスペシャルなひとときが過ごせるはず。新たな湘南の新名物と新しい異国体験をぜひ体感してみてください。
▲公園や海で食べれば美味しさもひとしお
バインミー パテ
神奈川県茅ヶ崎市赤松町 3-40 中田ビル202
[営業時間]
水〜金曜日(11:00 ー 14:30)
土・日曜日(10:00 ー 19:00)
[定休日]
月曜、火曜
[WEBサイト]
HP:https://banhmipate.com
ライター情報
ユゲヒロシ
鵠沼海岸生まれ、鵠沼海岸育ち。バックパッカーとして世界を旅した後、広告制作会社に。2003年よりフリーランスのライター&ディレクターに。趣味はキャンプ、ロードバイクなど。B・C級グルメ、お酒が大好き。
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