【湘南で暮らす人々】

海で会いたい~湘南を撮り続けるフォトグラファー 市川紀元さん

ふとした時にハッと息を飲むような美しい光景と出会える湘南。海に浮かぶ江ノ島、夕日に染まる海越しの富士、夜明けとともに海へと向かうサーファー…。そんな湘南の日常の風景を切り取り撮影し続けているのが、片瀬在住のフォトグラファー・市川紀元さん。ファインダーを通して、彼は湘南の何を見続けているのでしょうか。

実は多くの人が目にしている市川さんの作品

“市川紀元”という名前を聞いてもピンと来ない方もいらっしゃるかと思いますが、彼の作品を目にしたことがある方は多いはず。毎年、秋になると「江ノフェス」のポスターが湘南の街を彩りますが、実はそこに使われてきた写真の多くを市川さんが手がけており、多くの人が知らず知らずのうちに親しんでいるのです。

今や湘南を代表するフォトグラファーの一人となった市川さんですが、フォトグラファーとしては遅咲きなのだそう。「親父の影響で写真を撮ることは昔から好きでしたが、あくまでも趣味の範囲」で、「大学卒業後は普通に就職をして、SEとして生活していた」と言います。

同時に学生時代からサーフィンが好きで、波乗りを楽しむ毎日を送っていたのだとか。そうした日常を過ごす中、「朝早くサーフィンのために海へ行くと、とんでもなく美しい景色に出合うことがあるんです。そんな時、『この光景を撮りたいな』と思ったんです」。

  • (C) Norimoto Ichikawa

こうして、趣味だった写真にのめり込むようになります。あらゆる景色や風景、人物(ポートレート)を撮りため、次第に写真雑誌へも投稿をするように。「写真の専門学校も行かず、いわゆる師匠もおらず、写真に関しては完全に独学でした」(市川さん)。

ただ当時は今のようなデジカメではなく、ポジフィルムで撮影するので現像するまで写真映りが分かりません。「フィルム代もバカにならないので、シャッターを切るのに緊張しましたよね」と振り返ります。

  • (C)Norimoto Ichikawa

45歳にしてフォトグラファーとして独立

ある雑誌の企画では自身の写真が表紙に採用されるなど、着実にカメラの腕を上げていく市川さんに転機が訪れたのは41歳の時。「友人のカメラマンの先輩の都合がつかず、急きょサーフィン雑誌の表紙を撮ることになったんです。それはもう本当に緊張しましたよ」。

しかしそれをきっかけにフォトグラファーとして認められ、湘南の暮らしやカルチャーを紹介する雑誌『湘南スタイルマガジン』(枻出版社)をはじめ、さまざまな雑誌に活躍の場を広げていきます。この時、市川さんは45歳。それまで続けていたSEの仕事を辞めて、プロフォトグラファーとして生活してくことを決意したのです。

  • (C)Norimoto Ichikawa

海と人と街が一体となった、湘南の姿を映し出す

市川さんの作品を見て気づくのが、小さくともどこかしらに人、または自転車やサンダルなど“人を感じさせる何か”が映り込んでいること。「湘南って海と人と暮らしが密接につながっている珍しい場所。飛び抜けて美しい絶景があるわけではないが、海のそばには必ずそこで暮らす人の姿や息遣いがある。単なる風景を映すのではなく、海をはじめとする自然とともに生きる人々の営みを残したいんです」(市川さん)。

「理想とするのは、“海が映っていなくても、海を感じさせる写真”」とのことで、これまでに撮影した中でも満足のいく一枚があるのだとか。それは鵠沼の住宅街を、サーフボードを携えて海に向かって自転車で走る一人の女性の後ろ姿。ローカルの日常を切り取ったかのような印象的なこの一枚は、『湘南スタイルマガジン』の表紙にも使われたそうです。

  • (C)Norimoto Ichikawa

写真上達のコツは、「現場へ足を運ぶこと」

市川さんに写真上達のコツをうかがうと、「とにかく現場に足を運んで、場数をこなすこと。これに尽きます」と話してくれました。一週間先の天気や波情報を常に把握しているため、ある程度撮影に適した日は予測できるという市川さんですが、「今日はイマイチかな…」という日でも、とりあえず撮影スポットに足を運ぶのだとか。

「そうすると、突然意外な景色に出合うこともあるんです。そういう時は本当にうれしいですよ。逆に東京に仕事で行っているとき、夕日を見て『今日の湘南は最高の景色なのに…』と悔しくなることもあるんです」と、心底写真を撮ることが好きな様子が伝わってきます。

  • (C)J.Kumano

「湘南フォトセッション写真展」を毎年開催

そんな市川さんは自身の日々の撮影と並行して、写真の楽しさを広める活動にも積極的。「湘南フォトセッション」という写真講座を開いています。撮影テクニックなどを教わりながら、鎌倉や藤沢などのフォトスポットを巡るこの講座は、月に一度の開催日には多くの受講生が集まる人気のワークショップです。

この活動の集大成として受講生の作品を集めた「湘南フォトセッション写真展」は、今年で4年目を迎え、江ノ島のすばな通りの“ギャラリーT”にて「海で会いたい2019」と題して開催されています。今回は5月24日(金)~29日(水)を「PART1 春夏編」として、5月31日(金)~6月5日(水)を「PART2 秋冬編」として実施。筆者は前半の展示を拝見しましたが、どの作品もプロと見紛うばかりのクオリティの高さ。思わず見入ってしまうものや、「あ、こういう風景みたことある」と納得させられるものなど、バラエティに富んだ作品が心を和ませてくれます。

  • すばな通りで開催の写真展

  • ギャラリーでカメラを構える市川さん

  • 受講生の写真と一緒に

  • 市川さんの作品も一枚(右)

「これから先もそう長くないから(笑)、一段ギアを上げて撮影に励みますよ」と冗談めかして語る市川さんは、これからもますます目の離せない存在。秋の「江ノフェス」では、すばな通りのギャラリーで毎年個展を実施しているほか、毎年湘南の風景を収めたカレンダーも発売しています。市川さんの作品を通じて、誰もが見たい景色、そして知られざる湘南の姿と、湘南のあらゆる顔をご覧になってみてはいかがでしょうか。

湘南で暮らす人々

都心から電車で1時間と、遠いようで実は近くにある海辺の街。豊かな自然に囲まれて過ごす人々の表情もまた、おなじように豊かです。
本コラム『湘南で暮らす人々』では、この地で生活を営む人々にフォーカス。「やっぱりこの街が好きだ」というみなさん、そして「いつかはここで……」と憧れを持つみなさんと一緒に、多彩なライフスタイルを覗いていきたいと思います。

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市川紀元(いちかわ・のりもと)
1960年2月生まれ、藤沢市片瀬在住。写真好きだった父親の影響で子どものころからカメラと接する機会に恵まれる。1993年頃から湘南の波とサーファーを本格的に撮り始める。2001年夏からNALU、サーフトリップジャーナル、湘南スタイルマガジン(すべて枻出版社)、BEACH COMBING MAGAZINE(ライズシステム)等で作品発表の場を得る。2005年にキヤノンギャラリー(銀座・梅田・名古屋・札幌・福岡・仙台)で写真展「波乗りの街-湘南-」を開催し好評を博す。2006年以降も地元藤沢を中心に積極的に写真展を開催中。 

[ウェブサイト]
http://surfshonan.com/index.html
Facebook:市川紀元

  • (C)J.Kumano

ライター情報

ユゲヒロシ

ユゲヒロシ

鵠沼海岸生まれ、鵠沼海岸育ち。バックパッカーとして世界を旅した後、広告制作会社に。2003年よりフリーランスのライター&ディレクターに。趣味はキャンプ、ロードバイクなど。B・C級グルメ、お酒が大好き。

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