湘南の自然をフィールドにのびのび育つ子どもたち。「森と海のようちえん 湘南・鎌倉でんでんむし」の里山保育

鎌倉の谷戸と呼ばれる里山で、20年以上野外保育を続ける団体があります。専任の保育者と保護者が自主運営し、園舎を持たず一年のほとんどを野外で過ごす「青空自主保育」を続ける団体「森と海のようちえん 湘南・鎌倉でんでんむし」の日常を取材しました。
(トップ画像:秋の活動風景 提供=加治枝里子)

本日のプログラムは山歩き

湘南モノレール・西鎌倉駅から徒歩10分。保育の場所となる鎌倉広町緑地は、鎌倉・腰越地区に広がる広大な緑地です。住宅地に突如として現れる里山の風景は、地域住民が長年にわたる運動で開発から守り、市による公園化を実現させたものです。

11月初旬、集合場所の入り口広場に到着すると、でんでんむしの保育者と保護者が輪になってミーティングを行っていました。参加者は鎌倉市と藤沢市から集まった未就学児の親子です。

出席者や連絡事項などを確認し、山歩きが始まりました。今日のメンバーは子ども11名と保育者2名、当番の保護者1名です。
子どもたちはまだ眠いのか、座り込んでしまった小さい子の手を、大きい子が引っ張っています。

  • 出発前のミーティング。保育者と保護者で出席確認や子どもの様子などを確認します

  • 小さい子を立たせようと奮闘

大声で泣いても、山なら迷惑になりません

同行するのは、専任の保育者と当番の親が数名です。保育者が引率し、保護者は子どもたちのフォローをします。当日の出来事は当番の親が後日全員に共有し、問題があれば全員で話し合うシステムです。

筆者にバディができました。半年前に入会したI君(2歳)です。筆者が立ち止まると一緒に止まり、歩くと「ママー」と泣きながら追ってきます。青空自主保育の基本は「お口チャック、手は後ろ」。危険がない限りは無理に泣きやませたりはせず、本人が落ち着くまで見守ります。

大声で泣いても、山なら迷惑になりません。子どもたちの声も、ザーっという風の音に紛れて、吹き抜けていきました。

  • マイ・バディのI君。意外としっかりした足どりで歩いています

  • まるでジブリ映画のワンシーンのよう

常に変化する自然は、無限のアイデアを生み出します

子どもたちが秘密基地と呼ぶ、大木の根っこで休憩タイム。少しずつ紅葉し始めた森は、地面を覆う落ち葉が絨毯のようです。山に遊具はありません。棒きれや木の実、草むら。全てが遊び道具です。いつも同じでない、だから飽きない。常に変化する自然は、無限のアイデアを生み出します。

  • 秘密基地で内緒の相談

  • 草むらで「バスでーす。乗ってくださーい」

おにぎりをモグモグ。待ちに待ったお弁当タイム

「おなか、すいた!」と誰かが叫びました。お昼の時間です。お弁当箱には、大きなおにぎりが一つ。

  • 食事前にライゲン(手遊び歌)を歌い、絵本の読み聞かせも行います

  • おにぎりとサツマイモのお弁当

ゆっくり遊んで帰る

あっという間に3時間が過ぎ、もう帰る時間です。各自思い思いに遊びながら、ゆっくりと進みます。お弁当に満足したのか、I君も泣きやんで、もう追ってきません。泥んこ遊びは解散後も続いたのでした。

  • ヤツデの葉で「いないいないばあ」

  • 泥んこ遊びは、最高に楽しい

青空自主保育のために、都内から鎌倉に移住しました

保護者の方にお話を伺いました。写真家としても活躍中の加治枝里子さんです。でんでんむし在籍は6年目でお子さんが3人。上の子は既に小学生です。

「元々東京に住んでいて、都内で活動している青空自主保育団体の人と知り合い、興味を持ちました。その時に『鎌倉の自主保育が有名だから、行ってみたら』とアドバイスされて調べたら『でんでんむし』の説明会が翌日にあって。即申し込んで参加しました。ただ、都内在住だったため、体験入会はできなくて。近くに引っ越してから体験に来るように言われたので、すぐに家を探して鎌倉に移住しました」

保育のために移住までした理由は何だったのでしょうか。海外生活の長い加治さんは、世界でも珍しい、鎌倉の恵まれた環境が魅力だったと話します。「日本にははっきりとした四季があって、春には桑の実をとって食べたり、秋にはどんぐりを拾って遊んだりと季節の変化を楽しめる。特に鎌倉の谷戸は治安が良く、熊のような危険動物もいない。奇跡的に恵まれた環境だと思います」

自身が幼少期に大自然の中を駆け回って遊んだ経験がとても良かったことも理由の一つだったと話す加治さん。「上の子もたくましく育って、自己肯定感も強くなったと思います」と満足している様子でした。

  • 写真家の加治枝里子さん。「子どもたちが楽しそうに遊んでいるのを見ると、癒やされます」

  • 加治さんが「でんでんむし」の海活動中に撮影した写真(提供=加治枝里子)

余計な手出しをしない「引き算の保育」

保育者のお2人は、鎌倉の青空自主保育で自分の子どもたちを育て、その後は保育者として20数年活動を続けています。「でんでんむし」の一見ユニークな保育方針について伺いました。

「私たちの保育は、余計な手出しをしない“引き算”の保育です。『何をするか』ではなく、『何をしないか』に注意して子どもを見守ります。これは、うっかり先回りして子どもの成長の芽を摘まないための配慮です。とはいえ、してはいけない事や危険な事は大人の威厳を持って指導します。保育者を20年務めた経験も踏まえ、子どもにとって良い対応を柔軟に選ぶようにしています」

  • 保育者のお2人。左=菊田由香さん、右=鵜川幹(みき)さん。鵜川さんのお嬢さんは、女子ラグビーの元日本代表選手

地域で息の長い活動を続ける青空自主保育

鎌倉市には青空自主保育が6団体あり、鎌倉市や地域住民と連携して運営しています。「でんでんむし」は20年以上続いており、他にも深沢地域の「なかよし会」は今年40周年を迎えるなど長い歴史があります。

▼参考リンク:湘南・鎌倉の自主保育MAP
https://kamakurajisyuhoiku.wixsite.com/mapinfo

湘南の自然を知り尽くし、保育経験も豊富な大人が大勢見守る中で自然体験ができる鎌倉の環境は、加治さんが言うとおり奇跡なのかもしれません。

雨上がりの山で幸せそうに遊ぶ子どもたちを見て、とても気持ちの良い一日でした。

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