発明で稼ごう!? 鎌倉在住の発明家&ミュージシャン・小川コータさんに聞く「フリック入力を考案して、人生100回分の富を得た話」

小川コータさんに初めてお会いしたのは10年前、自然保育を行う団体の保護者としてでした。「スマートフォンのフリック入力を発明して、特許を売却したお金で暮らしています」という荒唐無稽な自己紹介。ウクレレを抱えてあっという間にイベントを盛り上げてしまうし、ミュージシャンでもあるらしい。謎が多く、つかみどころの無いお父さんという印象でした。そんな小川さんが発明に関する著書を出したということで、興味津々でお話を伺いました。

「発明はアート」フリック入力考案から特許売却まで

──そもそもなぜ、発明をしようと思ったのですか。

子どもの頃から工作が好きで、小学校の自由研究で塩ビパイプを使ってトランペットを作ったこともありました。
最初に本格的な発明をしたのは社会人になってからです。小さく折りたためるスケートボードを考案して自分で特許申請に挑戦したのですが、結局素人では特許取得には至らなくて。

アイデアが良くても、やはり専門の人がきちんと手続きしないと特許は取れないんだ――その時にそう感じて、弁理士という仕事に興味を持ちました。それがきっかけで、弁理士を目指すようになりました。勤務中に弁理士の仕事には理系の学位が役に立つと知って、東京工業大学の大学院にも通いました。

──音楽活動は、いつからされていたのですか。

学生時代からバンド活動をしていて、弁理士になってからも音楽活動は続けていました。本にも書いていますが、当時はあまりにもお金がなかったので、発明で一獲千金しようかなと。

──音楽を続けるために発明を? そこ、飛躍していませんか。

いや、全然。発明も音楽も同じですよ。僕は「発明はアート」だと思っています。発明は作曲と同じで、まず誰もやってないことをやる。それによって誰かが感動する。この2つが必要なところが両者に共通していますね。

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──フリック入力のアイデアを思いついてから、実際に世に出るまでってどんな道のりだったんですか?

フリック入力のアイデアは、当時住んでた文京区のアパートで、部屋に入った瞬間にふと思いついたんです。その場でざっと仕組みを考えて、すぐに動き始めました。

そこから特許の申請書類を作るのに3カ月くらいかかりました。本にも書いたんですが、「特許願明細書」っていう書類は何十ページもあって、特許の権利範囲とか要約とか、図面もいろいろ用意しないといけなくて大変なんです。出願してから実際に特許が取れるまでは、4年くらいかかりました。

僕の特許出願後にアメリカでiPhoneが発売され、その約1年後、「日本でも出るらしい」というニュースがありました。それで、このiPhoneにフリック入力を載せられないかなと思ったんですよね。

ただ、その時はまだドコモが出すのかソフトバンクなのかも分からなくて。そこで、東京工業大学のつてをたどって、両方の会社にプレゼンしてみたんです。

その時は全然興味を持ってもらえなかったんですが、実際にiPhoneが発売されてみたら使われていたんですよ。

──実は評価されていた!? でも、特許があったのでは。

特許は、まだ出願しただけの段階だったんです。先方にはすでに出願していることは伝えていましたが、特許にはなっていなかった。こういう段階の技術が使われてしまうのは、よくあることなんです。とはいえ、iPhoneが発売されるより前に出願してたのは事実なので、特許が通れば、その権利は僕のものってことになるんです。

それで、特許が通った後、弁護士と一緒に内容証明を送りました。「この技術は僕の特許なので、勝手に使うのは止めてください。もし使いたいなら、ちゃんと買い取るという形で金額を提示してください」っていう内容ですね。

その頃は、後発のAndroidやWindows Phoneでもフリック入力が使われていたので、内容証明の宛先は、Apple、日本マイクロソフト、NTTドコモ、ソフトバンクなど、10社ほどになりました。

訴訟で特許の無効を主張されて潰されるリスクがあるのは分かっていたので、弁護士や会計士など、僕も入れて6人のチームで慎重に交渉を進めました。各社から金額の提示があり、最終的には一番高値を提示してきたマイクロソフトに売却、といった流れです。

小川さんの著書「発明で食っていく方法、全部書いた。(フリック入力をマイクロソフトに売却して人生100回分稼いだ発明家が明かす、発想法からマネタイズまで)/小川コータ」(家の光協会)
フリック入力の発明からアイデア発想法、マネタイズまで詳しく書かれている。

大事なのは自由に、楽しく暮らすこと

──発明以外の活動についても教えてください。

2021年に「なみおと盆踊り祭り」というお祭りを始めました。地域密着型のイベントです。稲村ヶ崎の絶景をバックに、僕たちの生演奏で盆踊りを踊ったり、出店があったりと楽しいですよ!

僕が大事にしているのは、日々を充実させて楽しく暮らすこと。それから、自由であること。今は子どもたちもいるし、鎌倉の自然や地域の人たちとのつながりを大切にして暮らしています。

──今後やりたい事はありますか。

発明家を増やしたいですね。発明を日本のお家芸にできないかなと考えているんです。例えばアニメは世界でどんどん稼いでいるじゃないですか。それと同じ感覚で、日本は発明でも稼いだらいいのではないかと。発明は紙と鉛筆があればできるし、自分のアイデアが世に広まって、大勢の人が使ってくれるし、面白いですよ。興味がある方は、ぜひ僕の本を読んで、講演会にも来てほしいです。

  • 地元密着型イベントの「なみおと盆踊り祭」。小川コータ&とまそんのライブ演奏をバックに踊れる(写真提供=小川コータ)

スケールの大きな話を、まるで遊びに行った話でもするように話す小川さん。見えてきたのは、かなり早い段階から発明に強い関心を持って長期間、いろいろな形で動いていたことです。ひょうひょうとした語り口とは裏腹に、強い情熱と冷静な判断力も感じたインタビューでした。どうも簡単ではなさそうですが、一攫千金に興味のある方はぜひ発明にチャレンジしてみてはいかがでしょうか!

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