「防災をHappy にそしてカラフルに」新しい防災のカタチを掲げる古島真子さんの挑戦

防災士と聞いて、どんな人を思い浮かべるでしょうか。

私が初めて古島さんとお会いしたのは、とあるイベント。防災士として目の前に現れたのは、鮮やかな洋服を着た、髪色の明るい元気のいい女性で、想像以上にインパクトを受けたのを覚えています。

みんなから「まこぴ」と呼ばれ、明るく、親しみやすい古島さん。でも防災の話になると、真剣なまなざしへと変わり、言葉に熱がこもります。

古島さんは今、みんなが抱く防災のイメージや防災に対しての意識を、ガラリと変えようと奮闘しています。

被災地への訪れをきっかけに防災士へ

防災士とは、日本防災士機構が認証する民間資格を取得した人を指します。講座の受講と試験に合格する必要があり、取得後はあくまでも自発的なボランティアとしての活動がメインとなります。

地域での避難訓練などに携わる、被災地へと向かう、職場や家庭などにおいて知識を生かしていくなど、活かし方はそれぞれ異なります。

古島さんはなぜ、防災士になろうと思ったのでしょうか。

「もともと防災に興味があったというわけではなく、むしろ防災なんてダサい、と思っているような人間でした!笑」と話し始めてくれた古島さん。

防災士を目指すきっかけとなったのが、東日本大震災です。地震だけではなく津波による被害も甚大で、日本中が混乱し、当時東京の大学で1年生だった古島さんにとっても大きな出来事となりました。

  • 震災後の様子(2011年6月撮影)

  • 流された車(2011年6月撮影)

「日本が大変な時に、何もできない…」そんな想いを抱いていた古島さんは、東北にゆかりのある大学の先生とともに、何かできることがないかを探しに被災地へと向かうことを決意します。

先生から、被災地へ向かうにあたってニーズのミスマッチが起きてはいけない、と厳しく言われた古島さんは「力仕事もできない女子大生が、被災地でどう役に立てるのか、何が出来るのか」を真剣に考えます。現地の人たちや先生との話し合いの結果、「お茶っこ(お茶会)」はどうかと話がまとまります。

陸前高田にある小学校の校庭に設置された仮設住宅の集会所で「お茶っこ」が開催され、おばあちゃんや子どもたちが、わいわいコーヒーやジュースを飲みながら楽しい時間を過ごしました。

「当時、この活動が本当に役に立っている自信はなく、むしろ現地の人たちの優しさを受け取るばかりで。ボランティア活動をしているという感覚はありませんでした」と古島さんは振り返ります。

  • 仮設住宅集会所での活動風景

  • 「お茶っこ」の様子

心細い仮設住宅での生活の中で、ほっと一息つけるような時間がどんなに喜ばれたか、想像に難くありません。

コーヒーは嗜好品であるため、仮設住宅で暮らす人たちからは支援物資として欲しいとは言い出しにくいものでした。そのためとても喜んでもらえた、と古島さん。

すぐに現地の人たちと仲良くなり、訪れる回数を重ねるごとに絆も生まれました。大学を卒業してからも8月に行われる「うごく七夕祭り」に毎年のように参加、地元の人たちと飲みにも行くようになり、いつしか茅ヶ崎市と陸前高田市の2拠点生活がスタートしていました。

  • 祭りに参加する古島さん

  • 次第に絆が深まる

「震災から8年ほど経った時、今まで話題にできなかったような、震災当日の話を皆さんから聞く機会がありました。どうやって逃げたのか、当時家がどうなっていたか、とか。

その時に、目をまっすぐ見て言われたんです。地震が来たら逃げなきゃだめだよ!って。その一言で私の中で意識が変わって、防災についてしっかりと学びたいと思いました」そう古島さんは話します。

それからすぐに、防災士の資格を取得した古島さん。その知識を地域や職場だけではなく、広く発信することで誰かを救うことが出来るかもしれないと、SNSを中心に防災に関する情報の配信を開始しました。

古島さんのInstagramでは、リアルタイムに起きている災害の状況や、その災害に関連する寄付などの情報にプラスして、もしその災害が自分の身に起きた場合の対処法までアップされます。

「災害時のニュースでよく耳にする“多くの被害者や被災者”がもし自分だったら? 自分にとって大切な人だったら? そんな想いで配信を続けています。いざという時に身を守れるために」

実際に被災地を見て、直接現場の声を聴いてきたからこそ、古島さんの想いは強くまっすぐです。

  • 力強く立つ奇跡の一本松(2011年6月撮影)

2つのスローガンの意味とメッセージ

古島さんが掲げる2つのスローガンがあります。

「防災をHappy に」、そして「10人10色の個性に合わせたカラフル防災」。

防災のイメージとはかけ離れているHappyとカラフル。どんな意味があるのでしょうか。

「防災は、誰にとっても重要なことなのに人気がない。堅い・怖い・やらなきゃという圧…。そんなイメージが強くて、みんなが引いてしまうんです。だから、まずは防災のキャラ変をしたいと思っています。陰キャから陽キャへ!

人の意識を変えるのはとても難しいことですが、防災をすること自体が楽しそうと思えるようにしていきたい。日常までHappyにするものになったらやりたくなるのではないか、もっと取り組める人が増えるのではないか、と試行錯誤を続けています。

  • 震災から11年を経て海開きされた高田松原

もし災害が起きたとしても、防災していたことによって少しでもHappyな状態を保つことができれば、心が折れる機会が減るかもしれないと思うんです。心がHappyであれば、負けずに頑張ろうという気持ちも湧いてくるもの。災害が起こったらみんな避難所へ行って、暗く質素に生活をしなければいけないなんて間違っていて、出来るだけ快適であってしかるべきなんです。防災バッグの中にあたたかいコーヒーがあって、美味しいご飯があってもいい。そういった備えの提案をしていきたいと思っています」

被災地を見て、現地の人たちと長年付き合ってきたからこそ、このありかたが難しいことも十分に理解したうえで、「防災を広めるにあたってHappyを掲げていいことも、防災がHappyを生む可能性があるのもわかった」と古島さんは続けます。

  • 以前7万本の松があったエリア。新たな松が植えられすくすく成長中

そのHappyを叶えるためには、自分に合った防災の備えが必要になります。

例えば防災リュックの内容一つとっても、年齢や体格によって持てる荷物のおおきさは変わり、家族構成や自宅の立地条件によって揃える内容が異ります。100人いれば100通りの防災がある。まさに、それぞれの個性に合わせた「10人10色のカラフル防災」が出来上がるわけです。

  • 防災パーソナルレッスンについて説明中

古島さんが行っている活動の中に「防災パーソナルレッスン」というものがあります。その人に合わせた防災を提案していくもので、お家への訪問(オンラインでも可)から始まり、家族構成や家の備蓄状況、立地、個人の趣味嗜好を踏まえながら災害に備えるためのサポートをするというもの。宿題が出たり振り返り会があったりと、なかなかボリューミーな内容ですが、受講者からは、楽しかった、自信がついた、意識が高まった、といった声が多く満足度が高いといいます。

実際、災害に備えて何をどう揃えていいのかが分からないという人は多いはず。

私自身もその1人。家族は夫婦と小学生の子ども2人、中型犬ですが、必要な備えが十分とは言い難いです。もしものことが起こったら…そう想像しながら備えていくことはとても怖いことですが、古島さんが提唱する「災害時にHappyに過ごせるための準備」と思うことで、とても心が軽くなるように感じます。

今一度、家族で防災リュックの中身を見直してみようと思うと同時に、古島さんのスローガンが広く浸透してほしいと願います。

  • Happyになれるような防災グッズも制作したと紹介してくれる古島さん

  • おしゃれなネックレスも非常時に役立つホイッスル

自分、そして大切な人を守るために

古島さんは今、陸前高田での経験による津波防災に関する講演をはじめ、さまざまなイベントなどを積極的に行っています。

実際に住んでいる街を歩きながら防災について考えるイベントでは、参加者みんなと標識に注目してみたり、避難所となる場所の確認を行いました。

街を見ながら津波がどうやって押し寄せるか考察をすることで、防災へ繋げていく新たな試みになったといいます。通常の防災訓練とは異なり、自ら発見し、自ら考えるきっかけとなり、多くの参加者が「参加してよかった!」との感想をくれたそうです。

また、ビーチクリーンで拾ったゴミをデコレーションして、オリジナルキャンドルを作りながら津波防災を学ぶイベントなども開催。多くの人が参加しやすいような内容を次々と取り込んでいます。

「楽しくイベントに参加してもらって、まずは、防災に関して少しでもハードルを下げてほしいです。残念ながら、私1人が頑張っても世界は救えない。私だけが100歩進んでもあまり意味がないので、100人の1歩目を全力でサポートしたいと思っています。

全員の意識を変えるのは難しいけど、少しでも災害についての知識がある人が点在することで、もしもの時に全然違う結果になるはずなんです。災害は止められないものだけど、知識と心構え、そして備えがあるだけで必ず救える命が増える。自分、そして大切な人を守るために、1歩を踏み出してもらいたいと思います」

  • 津波防災に関する講演会

  • イベントで作成したアップサイクルキャンドル

古島さんの新たな挑戦は、多くの人の心を動かしながら少しずつ拡がりをみせています。

自治体をまきこんで何かできないか、地域で協力して助け合いのコミュニティができないか、もっと規模の大きなイベントができないか…。そんな話がどんどん生まれてきているそうです。古島さんの目指している防災が、個人から、家族・友人、そして地域へと拡大しているのです。

「防災をHappyに、そしてカラフルに」

新しい防災のカタチが定着する日もそう遠くないのかもしれません。

  • たくさんの人が参加するイベント Yumin-photo

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