湘南で暮らす人々

海、太陽、風…自然の躍動を感じるガラスたち。作家・賀来ヨーナスさんの心象風景に迫る

七里ガ浜の海から坂道を少し上がったところに「JONAS GLASS VISION(ヨーナス・ガラス・ビジョン)」というガラス工房兼ギャラリーがあります。ギャラリーには、気泡が波のうねりのように表現されたガラス作品や、光が幻想的に漏れるランプシェードなどの数々が置かれており、そこはまるで海の中の世界のよう。どの作品からも、自然のダイナミクスや流動性のようなものを感じます。

作品から受けるこの感覚の正体は何なのか、どのような方がどのような想いでつくったものなのか。ひどく心惹かれた私は、作り手のガラス作家・賀来ヨーナスさんにお話をうかがい、その歩みをたどりました。

  • ガラスの中に波を閉じ込めたような自然のエネルギーを感じる作品

幼少期に感じた自然との一体感

日本人のお父様、スウェーデン人のお母様を持つヨーナスさんは、スウェーデンで生まれ、七里ガ浜で育ちます。ヨーナスさんのお父様は開業医でしたが、自身は体を動かすことのほうが好き。進むべき道、スウェーデン人と日本人という2つのアイデンティティ、小さいながらさまざまな葛藤を抱えていたようです。

そうした少年時代、ヨーナスさんはスケートボードやサーフィンに出合い、のめり込んでいきます。それは、時に仲間と自分をつないでくれるものであり、時に自分だけの世界にいられる場所でもあったのです。

「自然と一体化することが好きだったんです。それぞれの動きに感覚を合わせることが楽しい。今思うと、それはガラスにも似た部分がありますね。自然の原料である砂を熱して液体にして、その流れに波長を合わせて固体のガラスをつくりあげていくわけですから」とヨーナスさん。

  • 手前のガラス作品は、大会に出場するなどスケートボードに熱中していた少年時代のヨーナスさんをおさめたもの

モノづくりへの想いが高まったアメリカでの文化交流

高校卒業後、ヨーナスさんはアメリカ・マサチューセッツ州の大学に留学をします。

そこで、ロックやヒッピー、ストリートカルチャーなど、アメリカの文化に触れることに。今まで知らなかった文化を積極的に吸収しようとする中で、創作活動をする友達が増えていきます。

「彼らのクリエーションに触れる中で、何かをつくり出すことへの興味が次第に強くなっていきました」とヨーナスさん。

モノづくりへの想いを強くしたヨーナスさんは、大学を辞め日本へ帰国します。そして、友人のお父様が営んでいたガラス工房を訪れ、ヨーナスさんは初めてガラスと出合います。

「帰国後にモノづくりをしたいとさまざまな経験をしたのですが、どれも何か違う。だけど、ガラスに触れて初めておもしろいと思ったんです」

  • 帰国後、音楽の道も考えたというヨーナスさん。音楽、スケートボード、触れてきたさまざまな感覚がヨーナスさんの作品をつくりあげている

自身の作風が生まれた琉球ガラスとの出会い

そして、ヨーナスさんは本格的にガラスを学ぶためガラスの専門学校へ。卒業のタイミングで、沖縄の琉球ガラスの工房が人材を募集していることを知り、沖縄へ向かいます。

「サーフィンができると思ったのが沖縄の工房を選んだ一番の理由です(笑)。もちろん、それだけじゃなくて、琉球ガラスの背景やその技法に興味を持っていたんですよね」とヨーナスさん。

琉球ガラスは、沖縄にアメリカの軍事基地ができたことで流通量の増えたガラス瓶をリサイクルするため、つくられるようになったものなのだそう。ガラス瓶を再生すると、どうしてもガラスが固くなり、成形の際に気泡が入り込んでしまいます。逆にその気泡を風合いとして、デメリットをうまく利用することで生み出されたのが琉球ガラスです。

ヨーナスさんは琉球ガラスから、自身のガラスというものを見つけていきます。

  • 現在のヨーナスさんの作品。波のうねりと水の泡、自然のダイナミクスを感じさせるグラス

そして、琉球ガラスの名工・稲嶺盛吉さんに師事していた豊島ルリ子さんの工房でガラス職人としての経験を積んでいきます。その後、独立したヨーナスさんは順調にキャリアを重ね、注目されるように。しかし、琉球ガラスは沖縄の工芸品であり、県外の作家ということで難しさを感じる部分もあったそうです。

地元・七里ガ浜で自身のガラスをつくる

地元・七里ガ浜に戻ることを決意したヨーナスさん。ちょうどその頃、引退を考えていたお父様から「医院を工房にしてはどうか」と言われたことをきっかけに、実家をガラス工房に改装。「JONAS GLASS VISION」が誕生します。

  • 医院を改装してつくられた工房兼ギャラリー。ガラス作品のほか、ヨーナスさんのもう1つの母国・スウェーデンの雑貨なども並ぶ

この工房でつくられる作品はどれも自由で、オリジナリティに溢れたものばかり。様々な文化、人々や土地との出会い、そのすべてがヨーナスさんの中で形となり、表現されています。

「僕はデザインを描くのが得意ではないんです(笑)。だから頭の中のイメージを、直観的に表現している。ヨーナスマインドがそのまま作品になっているんですよ」

ガラスの中におさめられた波のうねり、ランプから漏れるそよ風のような光のゆらぎ…。ヨーナスさんの心で感じた景色が、そこには広がっています。

「この地は昔とはだいぶ変わってしまったけど、今も海と自然がある。やはり、海が好きなんです。ここにいると、インスピレーションが沸いてくるんです」とヨーナスさん。

感性を縛ることなく開放できるのは、海と緑、幼い時の体験が詰まった七里ガ浜という場所なのかもしれません。

  • 絶えず変化するガラスと自身の動きを合わせるヨーナスさん

  • ガラスのランプシェードから光が漏れ出し幻想的なゆらぎに

  • 気泡やガラスの粒が水の中のような世界感をつくる

  • 自然を色鮮やかに表現した作品

人に影響を与える、そんなガラスをつくりたい

ヨーナスさんにとってガラスとはどのようなものなのでしょうか。

「僕にとってガラスはまず生活するためのもの。でも、それだけでは味気ない。だから、最近は人にどう影響を与えられるか、そんなことを考えて創作活動にあたっています」

  • 会話をするようにガラスと向き合うヨーナスさん

そんなヨーナスさんは、さらに活動の場を広げたいという想いもあるようです。

「僕はスウェーデンで生まれ、日本で育ちました。だから、両国のカルチャーを伝えるような活動ができたらいいなと思っています。そして、その交流をさらに多くの国に広げていきたい。それはガラスかもしれないし、別のものかもしれません(笑)。枠にとらわれずにやっていきたいですね」

良いものを分かち合い、発信する。豊かなアイデンティティを持つヨーナスさんだからこそできることがあるはずです。
ヨーナスさんの中から溢れ出る感性は、湘南の海を越えて世界へ広がっていきそうです。

「JONAS GLASS VISION」では、ヨーナスさんの作品販売のほか、ガラス片を組み合わせて絵柄を作り出すフュージングガラスや吹きガラスの体験も行っています。今度の週末、ヨーナスさんとともに、奥深いガラスの世界に触れてみてはいかがでしょうか。

  • 絵画のように自由に表現できるフュージングガラスの体験も

  • プレートやオーナメントなどがつくれ、ギフトにも喜ばれそう

  • グラスやお皿などをつくることができる吹きガラス体験。ガラスの魅力をたっぷりと味わうことができる

  • 吹きガラス体験で制作したグラス。形、色、気泡の有無、ガラスの線模様などデザインから考えることができる

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