【湘南談義録 -SHONAN casual minutes-】

「結局、お客さんは人に会いに来る」対談:岩本知也x大西芳実(中編)

湘南屈指の人気を誇り、数々のタイトルを受賞してきた「麺やBar 渦」。このお店のラーメンに魅せられ、そしてオーナーである大西芳実さんの人柄に惹かれて、遠路はるばる修行にやってきた人がいます。

生まれも育ちも愛媛・松山という、岩本知也さん。地元企業の営業マンとして全国を駆け巡る日々に別れを告げ、一世一代の大勝負に出ることを決意しました。そのとき彼が頼ったのが、湘南の地で丹精込めた1杯を作り続ける大西さんだったのです。

前編に引き続き、今回も岩本さんと大西さんの対談をお届けします。今回のトピックは「お店づくり」。ラーメン作りに込めた想い、そして人々のつながりについても語られます。

日本をちっちゃくしたいですよね、うちのお店の中で(岩本)

大西:
でもあれだね、あれから少しずつ形になってきたよね。2週間前には窯元さんを訪ねて器の話もしてきたし、農家さんのところに行ったり、他にもいろんな人達と打ち合わせさせてもらって、グワーッと動いたよね。

今週彼がここに来るにあたって、僕も試作品を作って食べてもらったんですけど……どうでした?

岩本:
……すっげえ美味かったです(笑)僕はこれを完成に位置して、「このラーメンを食べに行こう」ってなるぐらいのものにしたいなと思っています。

渦もきっとそうだと思うんですよ。例えば、「サーフィンしに行こう」って群馬の人が湘南に来ることがあったら、「湘南に美味いラーメン屋があるらしいから、せっかくだし行こうよ」ってなるみたいな感じで。

松山のお店も「ここのラーメンは地元のものを使ってて、しっかりしてるらしいよ」みたいなのが口コミとかで広まって、「松山、愛媛、四国にわざわざ来ました」ってなるようなお店にしたいな、って。

  • ▲ 愛媛・松山で「錦 iwamoto」を開く岩本知也さん

大西:
なんか(考えが)すごく似てるなーって思う。地元のものを使いたいよね。

岩本:
うん。お互いきっと地元のことが好きなんですよ。お店を出してる地場に対してね。

それに「地元の人に楽しんでもらいたい、喜んでもらいたい」っていうのと、県外から来たお客さん、松山市までわざわざ食べに来てくれたお客さんと常連さん達が一緒にいるような、いろんな方言が飛び交う混沌とした雰囲気って面白いんじゃないか……って思うんです。

愛媛の言葉があり、たとえば東北から出張で来た人たちが話し合ってたりとかして、そこで「愛媛ではこんなもの食べるんですよ」「へぇーそんなもの食べるんだ、秋田ではこんなもの食べるんですよ」っていう会話が始まるような。

日本をちっちゃくしたいですよね、うちのお店の中で。

お店の雰囲気はお客さんが作ってくれるものだけど、そのきっかけを作るのは店主だからね(大西)

岩本:
日本全国どこでも通じるのは、「美味しいもの食べたら人間笑顔になるし、美味しいお酒を飲むとみんな友達になれる」ということ。その中心に俺がなりたいな、って。

大西:
えっ……それ渦のコンセプトなんだけど(笑)マネしねぇでくれる?(笑)

まぁ、作りたいものは一緒なのかもしれないな。言ってることはすんなり分かったからね。

岩本:
今回渦で4日間朝からずっと現場に入ったけど、お客さんとして行くのとはまず目線が違うわけじゃん。ずーっと(お店に)いられるから「どんなお客さんが来るんだろう」とか、「どんなお客さんが何を求めて来てるんだろう」っていうのが見えてきて。

岩本:
すっごい面白かったのは、「地元の人はお酒を飲んで、ラーメンは食べないで帰る」っていうこと。

渦で飲みたいから「おーう、みんな元気?」ってお店に入って飲みに来るお客さんだったり、(顔なじみの)みなさんがいて、「あー今日そのまま呑んでいっていいっすか?」って呑んでいくお客さんが、すっごくプライベートな話をしていったりとか。

そんな人たちのとなりに「きょう初めて(渦に)来たんです、何がおすすめですか?」ってお店に来て、30分待って、ラーメン1杯食べて帰るっていうお客さんがいて。

そういう状況が混沌とあって、「(自分が求めていたのは)これこれ」って。でも狙って作れるものじゃないよな、とも思ったなぁ。

大西:
(そういう雰囲気は)お客さんが作ってくれるものだけど、そのきっかけを作るのは店主だからね。

  • ▲ 「麺やBar 渦」「麺や 渦雷」店主・大西芳実さん

大西:
俺が心掛けてきたのは、たとえばお店に常連さんがいて、そこに初めて来たお客さんがいたとしたら、初めて来たお客さんと話しながら「あれって○○でしたっけ?」みたいに話を振っちゃうの。そうして会話が始まったら、もう(話の流れをその人たちに)預けちゃう。

それで、たまーに(お客さんの様子を)覗きに行って、チョンチョンって突っついたりして。話が盛り上がったりしたら(初めてのお客さんでも)「また来まーす」なんてなって、常連さんになってくれたりするし。地方から来たお客さんだったら「また来たい」って言ってくれるしさ。

結局、(お客さんは)人に会いに来るからね。

岩本:
そう、それは面白いなーって思って。まず1本の線ができて、その線が輪になって、それがお店全体に広がっていったらすっごく面白いと思う。

大西:
だから、美味しいものは(これからも)作っていかなきゃいけないね。

岩本:
当然、当然。このラーメンだったら、いろんな人が食べて、いろんな人が虜になってくれるかなって思う。

――お店を開かれる場所は、松山の中でも特に中心部だと聞きました。

岩本:
はい。僕がお店を開くのは松山城のお城下ですね。

(お店を開くにあたって)僕の中では「松山城か道後温泉のどちらか」っていうのは譲れなくて。地元の人だけでなく県外のお客さまにも「愛媛、四国には美味しいものがあるんですよ」っていうことをアピールするには場所も重要だと思いました。

借りるテナントは古い建物なんですけど、聞けばその建物は小説『坊っちゃん』に出てくる「マドンナ」の家のモチーフになってるらしいです。同じ場所で何十年も商売をなさってるレストランバーのオーナーさんがそう仰ってて。後から知ったことですけど、まことしやかな場所なんですよね。

大西:
(『坂の上の雲』の)秋山兄弟の生家が近くにあったりしてね。

岩本:
一本隣の筋にあってね。正岡子規の実家もすぐ裏の筋にあり、夏目漱石が教鞭を揮ってた学校がその先にあり、みたいな。エリア的にもたしかにそうだし、建物の雰囲気もあるし。そういうポイントをメディアで取り上げてもらえたら、観光客の人々が来てくれるひとつのきっかけにもなるのかな。

“なかなか食べられない”という意味で、「松山にはない味」だと思います(岩本)

――試作品を召し上がった方が、「松山にはない味」という形容をされていました。

岩本:
確かに、なかなか食べられないかもしれないですね。

“県民性”とか、そういう言葉で片付けたらいけない話だとは思うんですけど、愛媛の人間はやや保守的なところがあるんです。新しいものは好きなんですけど、すぐに飽きて、安心できるところだから結局馴染みのお店に行っちゃう。そして、「それでよし」って。

だから、この言い方で正しいかはわからないですけど、どの分野でも秀でてる人がそんなに多く出てないような気がして。「新しい味を作り出したい」とか「もっといいものを作りたい」っていう人も、全体的に見たら少ないような気がする。

大西:
もしくはそういう気持ちを持っていたとしても、表現する場がないとか、機会があんまりないのかもしれないね。

岩本:
言葉を選びながら話してるんですけど、(適した言葉が)なかなか選び切れないですね。

前職で物産催事をいろいろ周ったんですけど、「四国の物産展」っていう形だと売り上げは弱いんですよ。どうしてだろう……って考えてみて、「もしかしたら売り出し方だったんじゃないかな?」と思ったんです。先輩方も自信がないわけじゃなかったんだろうけど、「これでよし」だったというか。

だからラーメン屋さんにしても、渦のようなラーメンというのはあんまりないですね。想いがちゃんと詰まっていて、それがちゃんと表現されているものはないように思った。だから、“なかなか食べられない”という意味で「(松山には)ない味」ということでしょうね。

後編へつづく……

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麺や 渦雷
神奈川県藤沢市辻堂新町1-9-7

[営業時間]
11:30〜15:00/18:00〜21:00

[定休日]
月曜日
※月曜日が祝日の場合は営業・翌火曜休み

[お問い合わせ]
Tel: 0466−33−5385

[ウェブサイト]
http://menya-bar-uzu.com/uzurai/

湘南談義録 -SHONAN casual minutes-

気心知れた相手とのおしゃべり。時に笑いながら、またある時には込み上げるものを感じながら……それは湘南の暮らしをよく表しているひとときかもしれません。

この街の生活を彩るものとは、いったいどのようなものなのでしょうか。本コーナーでは、“湘南の良さ”としてしばしば挙げられる「つながり」をテーマに繰り広げられるトークをお届け。海薫るスローライフのエッセンスをご紹介します。

ライター情報

akira suematsu

akira suematsu

湘南生まれ湘南育ちの純・湘南ボーイ。そのわりにサーフィンは未経験だが、鵠沼の海が世界で2番目に落ち着く場所である。まだ見ぬ湘南の魅力、そして多様なライフスタイルのあり方を求めて、ペンとカメラを両手に行動範囲を拡大中。

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