「すべての結婚式に選択肢を」車椅子ドレスデザイナー・宮澤久美さんが考える、ユニバーサルウェディングの未来

横浜の桟橋で車椅子に乗って、笑顔で新郎を見つめる新婦。クルーズ船で実際に行われた結婚式の写真です。障がい者の結婚式は式場探しや特注のドレスなど、挙式にたどり着くまでにさまざまな困難を伴うものだそう。

そうした人々に、会場探しから衣装レンタル当日のサポートまで、一貫してプロデュースする会社が茅ヶ崎にあります。「結婚式をすべての人へ」を合言葉に、あらゆるカップルの願いを形にしてきたHopeWeddings。今回は共同経営者であり車椅子用のウェディングドレスを手がけるデザイナー・宮澤久美さんにお話を伺いました。

「人生の晴れ舞台に選択肢を」アイデアいっぱいの車椅子ドレス

通常の結婚式場では、流行に合わせてレンタルドレスのラインアップを入れ替えています。宮澤さんは、入れ替えの際に式場が手放すドレスを受け継ぎ車椅子用にアップサイクルしています。

「車椅子ドレスは丈が短いので、裾の汚れた部分はカットできます。デザインが古かったら、他のドレスと組み合わせて今風のデザインに仕立て直せば素材として十分利用できる。これでやろうと思いました。」

既にあるドレスを活用することで、通常オーダーでは数十万円する特注ドレスが手頃な価格でレンタルできるようになるのだと言います。

「彼らは自身に何の落ち度もないのに、普段から制限の多い生活を送っています。新たな人生の門出なのですから、結婚式ぐらいは自分で選んだ衣装で思い通りに祝ってほしい」と宮澤さん。

宮澤さんが手がけるアップサイクルドレスはそうした思いに寄り添いながら、障がいのある方の体や動作に合わせて工夫されており、実際のニーズにも合ったものとなっています。

  • 通常のドレスの裾を短くします

  • 座ったまま着られるよう、背中側が大きく開く構造に

  • 前方から新婦にかぶせて、上部を留めることで着用できます

  • 車椅子での移動時に裾が絡まないよう、ドレスの裾を持ち上げて上部に掛けられるフックが付いています

進学校から服飾デザイナーへ

宮澤さんは両親の仕事で小学生時代を中南米のコスタリカ共和国で過ごしました。現地の日本人学校は小1から中3まで、全校生徒が50人もいない状態で、自然にお互いの違いを尊重する意識が育ったと言います。帰国後は神奈川県内有数の進学校に通う中ファッションの世界を志し、文化服装学院に進みます。

転機は早くやってきました。宮澤さんの選択を誰よりも喜んで応援してくれたお母さんが脊髄小脳変性症を発病したのです。徐々に体の運動機能が失われていく病気で、少しずつさまざまなことができなくなっていく姿を目の当たりにする中で、着替えやすい服を作ったり、リメイクしたりするようになります。そうした服を喜んで着てくれるお母さんの姿を見て、障がいのある方に向けた服づくりという方向性が見えてきたのだそうです。

車椅子用ウェディングドレスの制作を始めた頃、2度目の転機が訪れます。ドレスショップを経営していた伊藤かおるさんとの出会いです。車椅子ドレスの話を来た伊藤さんは、「うちのドレスを使って、車椅子ウェディングドレスを作ってみて」とドレスを2着、宮澤さんに渡したのだそう。この事がきっかけでHopeWeddings、そして車椅子用ドレスブランド「W2-Dress(ダブルツードレス)」が誕生しました。

  • 仕事着の白衣は、大好きなクリスチャンディオール オートクチュール工房のスタッフ着をまねたものだそう

「おめでとう」から始まる障がい者理解

HopeWeddingsのドレスはオーダーレンタルという形を取り、事前にサイズを聞いて微調整した物を貸し出しています。申し込みはネットで行いオンラインで打ち合わせするため、遠方からの申し込みも可能。実際に長崎や九州から来て横浜で挙式したカップルもいたとか。ブライダルを申し込んだ場合は事前に衣装をフィッティングできるそうです。

「結婚衣装を着ていると、車椅子でも道行く人が『おめでとう』と言ってくれます。これがドレスの力ですよね。」

お祝いごとから入っていけば、障がいの話も受け入れてもらいやすい。車椅子ウェディングのプロジェクトを通して、ファッションの力で社会的な障壁を乗り越えられるという確信を得ているようでした。

  • HopeWeddingsで挙式した人々の様子。「車椅子ウェディングドレスは、通常の服づくりに比べてお客さまからの『ありがとう』が3倍以上あるんです」(写真提供=HopeWeddings)

事業を継続し、次世代につなげたい

最近、都内の高校生が総合学習の一環で宮澤さんの工房を訪れたのだそう。

「学生たちにこういう仕事があると見せるためには、この仕事をビジネスとして続けなければいけません。1回ボランティアで作ってみました、ではダメなんです。お客さんがいて、必要とされているところを示さないと」と意気込みます。

株式会社ゼネラルパートナーズが2017年に実施した「障がい者の結婚に関する意識調査」によると、未婚の障がい者は全体の74%にのぼりまずが、そのうち66%が「いずれ結婚するつもり」とも回答しており、結婚や挙式に対するニーズは少なくないのかもしれません。

【障がい者の結婚に関する意識調査】
対象者:障がい者総合研究所アンケートモニター
アンケート期間:2017/6/9~2017/6/14(有効回答者数:478名)

  • 利用者からの感謝のコメント

たくさんの写真や感謝の言葉を拝見するうちに、挙式を望む人たちが全員希望どおりの式を挙げられるようになってほしいと、筆者も思わずにはいられませんでした。

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