泣いてスッキリ、終われば笑顔。悲劇の舞台を泣いて巡る「鎌倉涙活ツアー」
歴史上の悲劇が起きた鎌倉の史跡を巡り、悲しい物語を聴いて涙を流す、一風変わった観光ツアーが鎌倉にあります。主催するのは涙でストレスを軽減する「涙活」提唱者の吉田英史さん。涙活ツアーや講演会など、年間100件以上活動されている吉田さんに「鎌倉涙活ツアー」と、涙の意外な活用法についてお話を伺いました(2023年11月22日取材)。
ツアーを始めたきっかけ
──鎌倉涙活ツアーとはどのようなツアーなのでしょうか?
「鎌倉涙活ツアー」は、鎌倉の美しい景観を楽しみ、神社仏閣を訪ねて歴史に思いをはせながら「涙活」をするツアーです。出発前に短い「感涙動画」で泣きやすくなるようにウォームアップしてから、鎌倉の史跡を巡ります。鎌倉には幕府滅亡の地や御恩と奉公にまつわる感動的なエピソードのある場所など、泣けるスポットが豊富にあります。同時にハイキングコースも歩いて自然を楽しみ、心身を開放します。
参加者は10代から70代まで、職業も学生や主婦、会社員などさまざまです。海外からの参加者もいます。海外のメディアで涙活ツアーを取り上げていただいたことがあるので、インターネットなどで見て知っている方も多いようです。どんな人も生きていればストレスはありますから、皆さん「泣いてすっきりした」と喜んでいただいています。
ツアーで訪れる、鎌倉市内の「泣けるスポット」
吉田さんおすすめ、鎌倉の泣けるスポット「腹切りやぐら」
腹切りやぐらは軍記物語「太平記」の巻十に書かれている、北条一族の集団自決の舞台です。元弘三年(1333年)5月、新田義貞率いる倒幕軍が鎌倉市中に突入し、幕府軍は総崩れになります。北条一門の菩提寺、東勝寺では北条家最後の得宗である北条高時はじめ870余人が自害しました。倒幕軍はその後も進撃を続け、やがて北条一族は滅亡したと伝えられています。
北条一門が自害した、鎌倉幕府滅亡の地「腹切りやぐら」の石碑。やぐら付近は、現在立ち入り禁止区域となっている(写真提供=USAKO)
涙活とは何か
──涙活とは、どのようなものですか。
「涙活」は、意識的に泣いてストレス解消を図る活動です。泣くと癒やされてストレスが軽減し、さらに心の混乱や怒りが静まり、敵意も軽減するという研究があるのです。東邦大学名誉教授の有田秀穂先生の研究なのですが、先生にもご協力いただいて2014年に「感涙療法士」という認定資格を作りました。
涙に興味を持ったきっかけは、高校で教員をしていた時の生徒相談でした。相談中に怒りをあらわにした生徒は一度の対話では納得せず、何度も相談に訪れる傾向が見られました。一方で、相談中に泣いた生徒は、満足してそのまま来なくなることが多かったのです。それで、涙について調べ始めて今に至ります。
ツアー風景
「笑顔になるために泣く」涙の意外な活用法
──見ず知らずの人と一緒のツアーで、いきなり泣けるものですか?
事前に感涙動画を見てウォームアップして行くので、皆さん結構泣きます。ただ、「泣きのツボ」は人それぞれで、必ず同じ場所で全員泣く訳ではないですね。泣くという行為は、自分が出る行為でもあるのです。人は泣く時に、対象に自分の経験を重ねて見ています。何に泣いたかを観察すると自分の価値観が分かって、自己理解にもつながります。
例えば、泣きのツボを活用して、結婚相談所で「涙婚」(涙活×婚活)というイベントを開催したことがありました。参加者全員で映画を見て、泣いた物で見合い相手をマッチングするのです。例えば「猫の動画で泣いた人はこのテーブルです」「おじいちゃんもので泣いた人はこのテーブルです」というふうにグループ分けしてお見合いをします。泣きのツボが合えば、相性も合うだろうという趣旨です。人を肩書きで見ないで、その人の素の部分でマッチングする試みで、実際に成婚したカップルも10組ぐらいあったと聞いています。
一般に、泣くことは「かっこ悪い」「みっともない」などのマイナスイメージを持たれることが多いですが、実際は笑顔になるための行為でもあると思っています。
眼鏡とジャージ-がトレードマークの「なみだ先生」こと吉田英史さん
「涙活」を辞書に
──今後の目標はありますか。
僕は将来的に「涙活」という言葉を辞書に載せたいと思っています。既に「現代用語の基礎知識」には出ていますが、一般の辞書にはまだ出ていないので。最終的には「広辞苑」に載るぐらい、涙活を一般に広めていきたいです。
日本文化や自然を生かした多様なツーリズム
経済産業省の資料によると、2020年時点でのヘルスツーリズム(健康志向旅行)の市場規模は推計で約2.9兆円。2050年には約12.7兆円に成長すると予測されています。代表的なものは温泉やヨガなどですが、「鎌倉涙活ツアー」もその部類に入ると思われます。
歴史上の人物に感情移入し、ハイキングを楽しみながら涙活を体験する「鎌倉涙活ツアー」は、ただ史跡を見て回るよりも深く鎌倉を体感でき、快適な毎日を過ごす助けになるイベントです。
吉田さんのようにユニークな専門を持つ人々が様々な切り口で歴史や自然を捉え直すイベントを開催することは今後の観光トレンドに合致し、新たな鎌倉の魅力を発掘する可能性を広げているように見えました。
参考リンク:経済産業省|2020年の市場規模と2050年の市場規模の推計結果(P7)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/pdf/004_03_00.pdf
鎌倉涙活ツアー
[お問い合わせ]
Tel/Fax:070-6648-3039
E-mail:tearstherapy@gmail.com
[ウェブサイト]
https://www.ruikatsu.net/kamakuraruikatsu
■吉田英史プロフィール
鎌倉市出身。早稲田大学、同大学院で心理学等を学ぶ。学校勤務などを経て、2013年から「涙活」をスタート。医師、脳生理学者で、東邦大学医学部名誉教授の有田秀穂氏と認定資格「感涙療法士」を創設。全国で教育機関や医療機関、福祉施設等で講演会やワークショップを実施している。主な著書に『涙活力(るいかつりょく)』(玄文社)。
ライター情報

浜野タコ
鎌倉在住。広告会社アシスタント、雑誌編集を経て現在はフリーランスのライター。飲食店やイベント、アート展など幅広く取材しています。湘南の個性的な人々を取材・紹介するのが生きがい。趣味は料理とピアノです。
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