【あの路地を曲がれば。〜雑誌編集者の鵠沼ライフ〜】

鵠沼のルーツが詰まった川べりの公園

家の裏にある下藤ヶ谷公園が好きで、息抜きにたまに散歩します。境川に沿って背の高いクロマツに覆われ、池や沼が残るこの公園は、鵠沼で失われた自然がぎゅっと凝縮されたような場所。鬱蒼としているので、最近の小さな子ども連れのママさんたちからはあまり人気がないようですが、季節の移ろいを感じることのできる場所です。

春には菖蒲、夏にはひまわり、秋にはコスモス、冬には河津桜と、地元のボランティアによって育てられた花々が開き、道行く人の足を止めます。

クロマツや広葉樹が混在する豊かな森は、台湾リスの格好の遊び場。不思議な鳴き声をたどると、リスを発見できることはよくあり、つい観察してしまいます。

池にはカメやウシガエルが棲み(本来の生態系ではないでしょうけれど)、運が良いとカワセミに出会うことも! カワセミが飛来する季節には長いレンズをつけたカメラマンが大勢集まります。都市化が進み、一時期はほとんど見られなかったカワセミ。水質浄化などが進んだ近年、再びカワセミの飛来する光景が戻ったそうで、藤沢市の鳥にも制定されています。

「鵠沼」はその地名が表す通り、「鵠(くぐい)が棲む沼」と言われてきました。鵠とは、白鳥の古名。大昔は海の底だった鵠沼の南部は、明治時代まで不毛の砂丘地で、点在する沼には白鳥が飛来していたそうです。下藤ヶ谷公園は、その当時の余韻を残す「鵠沼」を象徴する場所だと思います。

今でもこのあたりは砂地で、大雨が降るとぬかるんだり、砂が流れ出したりしてしまいます。昨年は、我が家で剪定した松の幹を公園の砂留めとして活用いただきました。増えすぎてしまった松の伐採、行き場がなく処分するところだった松が再利用されて嬉しい限りです。

鵠沼の歴史に詳しい内藤喜嗣さん(鵠沼郷土資料展示室副運営委員長)に以前伺った話を思い出します。「戦前、あの公園の辺りはサギのコロニーだったんだよ。サギの卵は青くてね、子供のころよく取りに行ったよ」。もともとが湿地だったこともあり、水鳥のオアシスだったのでしょう。「ウナギもたくさんいてね、雨の日になるとウナギが道路を歩くんだよ」なんて、今では考えられない昔話には、驚かされるばかり。

夏、魚捕り網を持った元気な少年たちが公園の池に集まってきました。「何が捕れるの~?」とおもむろに声をかけると、「水カマキリだよ! エビもいるよ」「うちのお姉ちゃんはウシガエルも捕まえたよ」「ザリガニの赤ちゃんもいるよ!」と口々に。ああ、今の子どもたちも昔ながらの遊びをするんだなぁと、ほっこり。それもこの環境があってのこと。

実はこの公園は、祖父が鵠沼に引っ越してきた時代は、祖父宅の敷地内でした。父が子どものころ、走り回っていた庭です。あまりに広く所有し続けるのが難しかったため、藤沢市に寄付し公園として地域の皆さんにより大切に管理維持されています。

祖母も元気なころは、公園清掃のボランティアに参加していました。ボランティアの皆さんで植樹をし、大切に育てていた河津桜には、特別な想い入れがあったようで、開花の時期には毎年「川べりの桜が咲いたわよ。仕事の合間に見に行ったら?」と教えてくれました。そんな祖母は昨年他界しましたが、河津桜が咲くと、一足早い春の訪れを感じるとともに、祖母の嬉しそうな顔が思い浮かびます。

鵠沼の歴史を感じる自然豊かな公園散歩、おすすめです!

あの路地を曲がれば。〜雑誌編集者の鵠沼ライフ〜

鵠沼の自然を感じながら暮らす編集者が、湘南での日々の発見や四季折々の姿を紹介します。

当コラムの執筆者、尾日向さんの発行しているスノーカルチャー誌
『Stuben Magazine』の公式ウェブサイトはこちら:http://stuben.upas.jp

ライター情報

尾日向 梨沙

尾日向 梨沙

編集者。東京都出身、藤沢市鵠沼在住。出版社勤務を経て、現在はフリーランスでウィンタースポーツを専門に取材、執筆。2015年に北海道ニセコの写真家とともにスノーカルチャー誌『Stuben Magazine』を発行。スキーと旅はライフワーク。海、山、森と自然に囲まれて過ごす時間が何よりも好き。

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