応募殺到の平塚市美術館ワークショップは、1歳の赤ちゃんも参加!?

週末になると各地で多くのワークショップが開催されているように、参加者と主催者が一緒に楽しむ体験型講座「ワークショップ」は今や深く湘南地域に浸透しています。しかし、そんなワークショップがまだ一般的に広まっていなかった2004年頃から、既に取り組んでいたのが平塚市美術館です。近年、平塚ではパブリックアートで地下道を楽しく、美しく彩る「平塚地下道ミュージアム」が開設されるなど、アートで街を盛り上げるムーブメントが起きつつあるように感じます。

そこで今回は、アートで人を喜ばせる取り組みを長年続けている平塚市美術館にフィーチャー。美術館がワークショップを行うようになった経緯とは、一体何だったのでしょうか。平塚市美術館 館長の草薙奈津子さんにお話を伺いました。

美術館は作家のための場所じゃない、市民のための場所

「今でこそ年間10万人以上の方に足を運んでいただいていますが、就任当時は美術館の素晴らしさを市民の方々に伝えられているとは思わなかったですね。年間3万人という当時の入場者数は褒められる数字じゃない。お金を払わなくてもいい、とにかく建物の中に入ってほしい、美術館へ遊びに来てほしい、そんな想いがとても強かったんですよ。」

かつて東京都中央区茅場町にあった日本画専門の山種美術館(現在は渋谷区広尾に移転)に学芸員として長年勤め、2004年から平塚市美術館の館長に就任した草薙さん。就任当時、寄せられる市民の声は美術館に否定的なものばかり。まず追求したのは“美術館は作家のための場所じゃない、市民のための場所”にすること。学芸員好みになりがちであった専門性の強いものばかりではなく、世間一般に喜ばれる「良い展覧会」を企画することだった。大都市で開かれるような展覧会を地域でも見られるように、質の高い作品の展示を次々と企画。さらには「大きい展覧会」と「小または中の展覧会」の2つ同時開催を行うことに。今も続く、平塚市美術館のスタイルが始まった。

  • 平塚市美術館の草薙館長

展覧会の回遊性を高め、興味を持ってもらえる企画を用意

「大きい展覧会を見に来た人は、同じチケット(平均800〜1000円)でもう一つの展覧会を見られるようにしたんです。例えば、7月7日から『金魚絵師 深堀隆介展 平成しんちう屋』が始まります。メディアでも注目される人気作家の作品展の横で、美術館の所蔵品を使って『夏の所蔵品展 いきもの図鑑』も開催します。人気作家の作品を見に来た方が興味を引くような展覧会を隣に用意すれば、お客さんの足を止めることなく計2回観てくれたことになる。展覧会を個別で考えるのではなく、2つの組み合わせで考えることで、年を追うごとに入場者数は増えていきました。」

様々な組み合わせの展覧会が開催できるのも、平塚市美術館が学芸員にとって使いやすく設計されているという強みを活かしているからだ。美術の専門家として見ても、市民が自信を持って素晴らしいと誇れる美しい建物として造られているそう。

「著名な建築家が作った美術館は、建物そのものが作品になってしまって個性が主張し過ぎる場合があるんです。そのために展示が建物に負けてしまうこともあります。その点、幸い平塚市美術館は日建設計という建築会社の設計であったため、作品性が抑えられ、どの作家の作品でも受容できる包容力があるんです。約700㎡の広い真四角の展示室が2つありますから、展覧会の内容さえ良くなれば人は必ず来ると思いましたよ。館内周辺の樹木の緑も、広いロビーも、素晴らしい環境ですしね。」

ユニークなコラボ展も人気

「日産自動車」や「不二家」といった近隣企業と協力して、ユニークな地元ならではのコラボ展も手がけている。2015年7月に開催した不二家の人気キャラクター『ペコちゃん展』は、関連グッズの展示だけでなく、現代美術の作家17人が展示に合わせてオリジナル作品を制作したりと、大好評であったコラボ展の代表例だ。

「よく美術関係者に企業とのコラボ展について進め方などを聞かれたりしますが、深く考えてはいません(笑)。企業にこちらから出向いて、楽しんでもらえる企画を一緒に出来ないか、そういう話を積み上げているだけです。そうそう、『ペコちゃん展』の時にはミルキーの飴を作るワークショップをやったりして、もの凄い来場者が集まったんですよ。」

ワークショップは美術館の“普及活動”

就任してから始めたワークショップは、美術館へ気軽に足を運んでもらうための言わば普及活動だ。真っ暗な展示室で懐中電灯の明かりをたよりに作品を鑑賞する「美術館で洞窟探検」や、普段は非公開の美術館の裏側を見られる「子ども向けバックヤードツアー」など、美術館でしかできないものばかり。その中でも応募殺到なのが、1歳〜2歳3ヶ月を対象にした赤ちゃん専門の鑑賞講座「赤ちゃんアート」である。専門の外部講師を招いて、赤ちゃんと一緒に本物の絵画を鑑賞して、絵を描いたりすることも出来る。

「アートにはセラピー効果があります。講座が終わっても子どもたちが帰りたくない!と言っていたり、外部の先生がお子さんの悩みについて相談に乗ってくれるのでお母さんたちにも大好評ですよ。お子さんが小さいと美術館には行きづらいものですし、一人で子育ての悩みを抱えている方も多い。月に1回、3ヶ月で一つのコースになっているので、美術に興味のあるお母さん同士が悩みを共有出来る場になっているように思いますね。」

美術館が支える、アートで街を盛り上げる機運

もはやアートを超えた子育て支援だ。この他にも、作家であり多摩美術大学教授である岡村圭三郎氏が講師を務めた講座や、東海大学美術学科の先生たちが教えてくれる「彫刻のデッサン」など、美術のプロと一緒になってワークショップを運営している。7月7日から始まる『金魚絵師 深堀隆介展 平成しんちう屋』においても、透明樹脂にアクリル絵具で金魚を描くワークショップを作家本人と一緒に行う(7/21、8/11 ※要事前予約)。

良い展覧会を追求してきたからこそ、生まれてきたネットワークの賜物だろう。良い場がなければ、良き作家も作品も生まれない。近年起こっている“アートで街を盛り上げる”といったムーブメントも、平塚市美術館は土台となって支えているのかもしれない。

次回企画展『金魚絵師 深堀隆介展 平成しんちう屋』

◆会期:2018年7月7日(土)〜9月2日(日)
◆開館時間:9:30〜17:00(入場は16:30まで)
※8月4日(土)〜 8月19日(日)は18:00まで開館(入場は17:30まで)
◆休館日:月曜日、7月17日(火)
※ただし、7月16日(月・祝)は開館
◆観覧料金:一般900(720)円/高大生500(400)円
※()内は20名以上の団体料金
※中学生以下、毎週土曜日の高校生は無料
※各種障がい者手帳をお持ちの方と付添1名は無料
※65歳以上で平塚市民の方は無料、市外の方は団体料金(年齢・住所を確認できるものを提示)
※親子割引あり(中学生以下の子とその親・祖父母)
◆会期中イベント
ライブペインティング/作家によるワークショップ/講演会/公開制作/作家による作品解説ツアー など
※各イベントの詳細は公式ウェブサイトをご確認ください

主催:平塚市美術館
協賛:ターナー色彩株式会社、神奈川中央交通株式会社
出品協力:株式会社そごう・西武
制作協力:NHKプラネット中部

平塚市美術館

神奈川県平塚市西八幡1-3-3

[開館時間]
9時30分〜17時00分(入場は16時30分まで)

[休館日]
月曜日、年末年始(12月29日〜1月3日)
※月曜日が祝日・国民の休日の場合は開館し翌日休館、振替休日の場合は開館

[ウェブサイト]
http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/index.html

[お問い合わせ]
TEL:0463-35-2111

  • 自由に美術関連の本を閲覧できる図書コーナー

  • ワークショップなどで使われるアトリエは2階に

  • 市民アートギャラリーでは有志による展示も可能

ライター情報

すぎさきともかず(SHONAN MAJOR COMPANY)

すぎさきともかず(SHONAN MAJOR COMPANY)

スポーツジャーナリスト、株式会社湘南メジャーカンパニー代表。出版社勤務後、2006年よりフリーに。スポーツ、ビジネス、ライフスタイルなどの媒体にて多数執筆。著書に「サッカー選手から地方政治家へ 日本代表議長 森正明」(タウンニュース社)がある。趣味は純喫茶&古本屋めぐり。平塚生まれのTUBE好き。

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