【湘南談義録 -SHONAN casual minutes-】

「“お店の役割”を考えるのって、大事だよね」対談:Fencerx南大治(第3回)

お店がオープンして10年という節目の年に、長らく親しんできた浜見山から辻堂駅前へと移転した「Minami Curry(ミナミカレー)」。時を同じくして、浜見山で“独立”を果たした日本酒DJバー「オフェンバー」。長年の知り合いであり、それぞれの店主でもある南大治さんとFencerさんの対談連載も最終回を迎えました。

これまでの経緯、お店のこと、お酒と音楽、そして湘南という街……あらゆるトピックを経て、最後は2人の共通点について聞きました。それぞれの専門に取り組む姿勢に垣間見る、クリエイティビティの本質に迫ります。

――さて、お2人はそれぞれカレーと音楽という専門分野をお持ちですが、その2つに共通点があるとしたら何だと思いますか?

Fencer:
うーん……僕も大治くんもお互いコアな部分を掘ってきたと思うんだけど、そのコアな部分を残しつつもキャッチーに表現したいっていうところが似てるかなぁ。

(Minami Curryのカレーは)インドカレーではない、でも一般のカレーでもない。それぞれのいいとこ取りというか。僕の音楽もそういうものを目指している部分があるので。

南:
そうだね。自分は好きなことを仕事にしてるけど、それでもやっぱりビジネスだからね。

Fencer:
売れることよりも、ファンの人たちが喜んでくれるものを作りたいっていうのはありますね。でも、まずはファンの人たちに届かないとね。自己満足では終わりたくないんです。

“広く届けるための音楽”と“売れるための音楽”っていうのはぜんぜん違うと思うんですよね。自分は、“広く聴いてもらう”っていうのを意識して作ってますね。

  • ▲ Fencerさん(音楽アーティスト、「オフェンバー」店主)

南:
“広く聴いてもらう”っていうのは、つまり“売れる音楽を作る”っていうことじゃない?

Fencer:
結果的にはそうなんですけど、「何をプライオリティに持ってくるか」が違うんですよね。

たとえば、僕の知り合いのアーティストは“売れる”ってことを先に考えて作ってる。「今はこのコードが流行ってるから、これを使えば売れる」っていうふうに。でも、自分にそれはないかな。まだ実力もないし。人々に届いていくっていうところでは一緒でも、(作曲に取り組む)姿勢は違うというか。

南:
それはすごいと思う。『Rip Current』(Fencerさんの1stアルバム、2012年6月発売)を初めて聴いたとき、「キャッチーすぎて聴けないぐらいキャッチーだな」っていうのが第一印象だったの。

音楽に関していえば、俺もパンクやハードコアを中心に、もうFencerどころじゃないぐらいコアなものを聴いて、その道にハマっちゃってた。10代〜20代のときはずっとバンドでそれをやってきてたから、俺もそれなりにアンダーグラウンドな音楽に足を踏み入れてたのね。

そんな状態でカレー屋さんを始めたから、最初のうちはややアングラな雰囲気があったんだけど、お店としてカレーはお客様に食べていただくものだし、まずは自己表現じゃなくて、お客様の心を豊かにするようなものを目指した。それを作ることも自分にとっては喜びだったし。

そんなカレーを食べて、「また来たい」って思ってもらって、実際にまた来てもらう。それの繰り返しだよね。

まずお客様に楽しんでもらえないといけないかな、って(Fencer)

Fencer:
ですよね。僕もオフェンバーをやりだして強くそう思うようになりましたね。自分のこだわりどうこうっていうよりは、まずお客様に楽しんでもらえないといけないかな、って。

南:
やり方はいろいろあると思うんだよね、カレー屋さんにしたって。カレーってもはや国民食じゃない。ひと口にカレーといってもいろいろなカレーがあるから、「カレー屋っていうからにはかなりのこだわりがあるんでしょ?」っていう言われ方もするし、カレーマニアの人たちにとってはひとクセあるカレーのほうが好みだ、っていうのも分かる。「口に運んでみたら、想像を超えるスパイシーさがあった」みたいな感じ。

ただ、カレー屋としての10年以上のキャリアで得た経験からすると、そういうクセのあるカレーを好むお客様は全体的に見ればわずかな割合なのね。

  • ▲ 「Minami Curry」の様子

Fencer:
それは音楽も同じですね。 “耳障りな音楽”が好きな人からすれば、“耳障りの良い音楽”はもうその時点でナシ、って人もいるし。

でも根本的な部分って、聴きやすいとか聴きづらいとかじゃなくて、しっかり芯があるかどうかだと思うんですよね。“耳障りの良い音楽”でもちゃんとルーツが見えて芯があればそれで良いと思うし。そういう意味では、大治くんのカレーは芯があって独創的だし、それでいてキャッチーなところもあって好きですね。

たまにはあるんですよ、カレーも音楽も、クセのあるものを選びたくなるときが。でも日常では要らない。その点、僕がMinami Curryに通ってるのは「日常に溶け込みやすいから」なんですよね。だから自分もそういう音楽を作っていきたいな、って思う。

南:
そう言ってくれるのは本当に嬉しいね。そういう(日常に溶け込みやすいものを作る)ところで共通するところがある、っていうのもそうだし、そういうところこそが俺の狙いだから。でも、それをキャッチしてもらいたいかどうかっていうのは謎だよね(笑)

  • ▲ 南大治さん(「Minami Curry」店主)

南:
いまの日本のミュージシャンって「本当にすごいな」っていう人たちがたくさんいすぎて、みんな探求し続けてるし、そういう人たちは秀逸な音楽を作ってる。だから、自分自身(カレー作りにも)ものすごく刺激を受けるんですよ。

Fencer:
いやー、やっぱり大治くんは音楽が好きっていうのもすごく大きいですね。僕がMinami Curryに通い出した理由の一つとして、カレーの美味しさ以外に店内でかかってる音楽のセンスが良かったってこともあります。音楽をやってる人間としてお店のBGMっていうのは気になるんですよね。どんなに良いお店でもBGMが正直ダメだったら、ちょっとなって思うし。

すごいものはいくらでも作れるよ(南)

南:
音楽もお店づくりの一部だよね。たとえば飲食業だと、毎日12時間とか、同じ音楽を3回ぐらいループしたりして聴くわけじゃないですか。うちではFencerの曲とかをかけたりするんですけど、それでも誰も何も言わないっていうか、嫌気が差さない音楽なんだよね。

Fencer:
それは嬉しいですね。やっぱり、リピート(再生)されるアルバムを作っていきたいなぁっていう想いはありますね。

――「普遍的なものを作る」って、実はすごく難しいのかなと思います。

Fencer:
いや、本当に難しいですね。(ほうっておくと)つい世界観重視の暗い曲ばかり作っちゃうし(笑)。Fencer名義で出す前はさんざんやりたい放題でやってきたけど、今はようやく“テーマに沿った音楽作り”っていうのが少しはできるようになった感じですかね。

やりたい放題、勝手に作るのはすっごく簡単ですよ。大治くんも「インドカレーでやりたい放題で作れ」って言われたらすぐ作れちゃうと思うし。制限とかなしにやってみたいカレーってたくさんありますよね。

  • ▲ 「Minami Curry」の様子

南:
いっぱいあるよ。たとえば「5人ぐらいのホームパーティーでカレー作って」って言われたら、めっちゃ幅あるもん。それをさ、ここ(お店)だと1回で100人分ぐらい作るわけじゃん。「お店が満杯になったとしても10分以内にお出しする」っていうのを目的としてやってるから、そういうことができるカレーって言われると結構限られるの。

お金と時間を掛けたいだけ掛けられたら、すごいものはいくらでも作れるよ。でも、限られた時間と、限られたお金と、限られた労力で作っていくっていうのは難しい。

Fencer:
難しいですね、限られた環境の中で自分を表現して個性を出す……っていうのは。「制限された美学」だなぁ、って思います。

オフェンバーでも同じことが言えますね。駅から離れていて不便ではあるけど、そこだからこそ出来ること、みんなが楽しく集まれる魅力的な場所にしていきたいです。

南:
“地域にとってのお店の役割”を考えるのって、大事なことだよね。

うちの場合は、浜見山の辺りから辻堂駅前に移ってきて、“食べたくなったときにパッとカレーを食べられる場所ってなかなか少ないよな”って思ったの。カレー屋さんってわりと両極端で、かたやチェーン店みたいなカレー屋さん、かたや南インド風とか北インド風の本格的なカレー屋さん……みたいに。その中間を行ってるお店って結構少なくて。

浜見山にいたときは規模もちっちゃくて1人でお店をやってたから、満席になったりすると30分とか待たせちゃってたんだよね。でも、こっち(駅前)でも同じことをしてちゃダメなんだよ。

だから、今回はすごく考えた。(スピードとこだわりの)中間、中間を取ってやってやろう、って。それがこのお店の役割だと思うんだよね。お客さんの要望にもしっかり応えながら、チェーン店とかレトルトではない、ちゃんとしたカレーを出していきたいなって。

Fencer:
いやー、音楽とカレーでそれぞれフィールドは違うけど、目指すものは互いに似てますね。

Minami Curry
神奈川県藤沢市辻堂2−11-6

OPEN:
11:00〜15:00 / 17:00〜21:00(平日・土曜)
11:00〜16:00(日曜)
L.O. … 各営業時間の終了30分前

CLOSE:
月曜、毎月最終日曜

Tel: 0466-53-7287

Facebook: Minami Curry

〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜

オフェンバー
神奈川県藤沢市辻堂5-20-16

OPEN:
19:00〜26:00(平日・土曜)
12:00〜18:00(日曜)

CLOSE:
月曜

Tel: 0466-47-7375

Facebook: @ofenbar
Instagram: @ofenber222

湘南談義録 -SHONAN casual minutes-

気心知れた相手とのおしゃべり。時に笑いながら、またある時には込み上げるものを感じながら……それは湘南の暮らしをよく表しているひとときかもしれません。

この街の生活を彩るものとは、いったいどのようなものなのでしょうか。本コーナーでは、“湘南の良さ”としてしばしば挙げられる「つながり」をテーマに繰り広げられるトークをお届け。海薫るスローライフのエッセンスをご紹介します。

ライター情報

akira suematsu

akira suematsu

湘南生まれ湘南育ちの純・湘南ボーイ。そのわりにサーフィンは未経験だが、鵠沼の海が世界で2番目に落ち着く場所である。まだ見ぬ湘南の魅力、そして多様なライフスタイルのあり方を求めて、ペンとカメラを両手に行動範囲を拡大中。

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